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Minimum Bout Act.01

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 何と、目測することが出来ない程の高さから落ちて来たのは人間だったのだ。
 助からないと思われた女はカッツの知り合いの医師に預けられ、奇跡的に一命を取り留めた。が、自分に関する記憶の一切を失っていた。
 さらに驚いた事に女はIDを持っておらず、その素性は記憶が戻っていない現在も分からないままだ。

 遥か昔に地球から宇宙に逃げた人類の総人口はたったの500万で、それ以降に生まれた人間には必ず体にIDが記録される事が義務づけられた。そのおかげで通常は誰もがIDを持っていて、どこの誰なのかが分かるようになっているはずなのに、女の体にはなかった。
 仕方なくトレインを通して警察に届け、ベニーランド国民としてIDを発行してもらい、ルーズという名前を付けられた。
 名付けたのはカッツで、全てがデタラメな女だから“ルーズ”なのだそうだ。
 故に彼女の記憶はシン達と出会ってからしか存在しない。
 あの時ターゲットを追っていた星は組織の所有する会社が多く軒を連ねる場所だ。ルーズが組織に関係した仕事をしていた可能性は否定出来ない。
 さらには事故などではあり得ない、銃や刃物で拷問されたような大けがをしていた事からも、組織はルーズを殺そうとしていた可能性がある。なにより自分の事以外に関するルーズの知識は凄かった。研究者だったのか、エンド設立時の旧地球連邦に関するあらゆるデータの詳細を知っていたのだ。そのこともあり、ルーズはMBでは情報収集を担当している。
 組織とは関わりたくなくてもどこかしらで関わるはめになるシン達は、組織という単語が出る度に一瞬辛そうな表情をするルーズに同情を覚えずにはいられなかった。
 記憶を戻した方がいいのか、それともこのまま思い出せずにいた方がいいのか……

 「今こっちのエレンのIDの事を父親に聞いている。父親は知らないと言っていて、今、自宅にいる娘を呼び出した所だ」
 過去を振り返りながらシンが伝えると、ルーズはいつも通りの調子で言った。
『そう。その事も含めてもう少し詳しく調べてみるから、そっちも何か分かったら連絡頂戴』
「分かった。じゃあな」
 シンがルーズとの回線を切ると、丁度エレンがこちらへ向かって歩いて来るのが見えた。




作品名:Minimum Bout Act.01 作家名:迫タイラ