Minimum Bout Act.01
トレインは封筒に手紙を納め、カッツをチラリと見て咳払いをする。
「ところでリードさん。あなたのお嬢さんのIDは偽造された物である疑いがあるのですが、心当たりは?」
「は? エレンのIDが偽造? どういう事でしょう?」
トレインはガイオが嘘を吐いていないか、じっくりと観察をしながら進めた。
「エレン・リードという女性はこのドルクバに2名しかいません。そのうちの1人は先ほど無くなった65歳の老女で、もう一人のエレン・リードはあなたのお嬢さんですが、IDを上から書き換えた痕跡があって、実際は10年前に事故死となっていました……どういう事か、ご説明願えますか?」
「そんな、知りませんよ! 確かに私の娘は10年前に航空機の事故に巻き込まれましたが、死んでなどいません! あなたは私の娘に今朝会ったんでしょう?」
驚くガイオはそう言ってカッツを見た。
カッツはソファーに背を預けて横に立っているシンを見上げる。
「確かにあんたの嬢ちゃんには会った。だが元のIDでは事故死となっているんだぞ? あんた、何か隠してないか?」
「知りません。本当に何も知らない! 私のようなただの機械屋に、娘のIDを偽造するような真似が出来るはず無いでしょう!?」
テーブルをドン! と両手で叩き、ガイオは立ち上がった。そして、
「娘を呼びます」
そう低い声で言うと、机の上にある電話の受話器を上げた。
丁度そのタイミングでカッツとシンのインカムから呼び出し音が聞こえ、シンはカッツに一瞥をくれると応接室を出た。
「オレだ」
『シン? 今どこ?』
「リード社にいる。エレンの言ってたパスト・ヤーセンって男は退職願を出して辞めていて、エレンはそれを知らされていなかったみたいだ」
シンは窓から落ち着き無く応接室内を歩き回るガイオの様子を伺いながら言った。
その様子は混乱しているようで、本当にIDの事を知らないようにも見える。
『何? じゃあパスト・ヤーセンは行方不明じゃなかったって事? 私はこっちに来なくても良かったみたいね』
「だな。でもま、ID偽造の事はまだ解決してないからな。で? 何か分かったのか?」
作品名:Minimum Bout Act.01 作家名:迫タイラ