Minimum Bout Act.01
「俺はカッツ。隣りのベニーランドから来たんだが、人探し屋をやってる。あんたんとこの嬢ちゃんに、パスト・ヤーセンって男を捜してくれと頼まれた」
ガイオはカッツを見て困ったようにため息を吐いた。
「そうでしたか。実は、パストは先週退職しました」
「なんだと? 2週間前から無断欠勤してるって聞いたぜ?」
「娘はパストに一方的に想いを寄せていたみたいで……退職願を提出したと知ったら騒ぐと思い、内緒にしていたんですよ」
カッツとトレインは顔を見合わせた。
「その退職願を見せて頂けますか?」
「ええ、もちろん」
ガイオは立ち上がりツヤツヤの樫の木で作られた机に向かうと、引き出しから封筒を取り出してカッツの前に置いた。
トレインはさっと手袋をはめ、封筒から中身を取り出す。
中身はごく普通の退職願で、文面は一身上の都合で退職したいとの旨が書かれていた。
「この一身上の都合というのは?」
「なんでもイシナで新しい仕事に挑戦したいとか。以前から手先が器用だから技術者として勉強させたいとは思っていたんですが、時計の方に興味があったようです。今時秒針を刻むアナログなんかと思いましたが、旧時代の物はマニアの間では随分高い値段で取引されるでしょう? 彼の父親が大昔の掛け時計を持っていて、それを修理してからその道に進みたいと思ったそうです」
イシナというのはドルクバから遠く離れた国で、科学の発展した現代では珍しいアナログ製品を作る職人が多くいる国だ。
現在カッツ達が生活をする星は銀河系の中にあり、遥か昔に世界大戦の後に死の星となった地球から避難した人類が、太陽系を点々としながら流れ着いた惑星だ。
『エンド』と名付けられたその星は地球に似せて作られているが、ほとんどが砂漠と水で、長い時間研究を重ね、ここ20年でようやく空気と重力を地球と同じように形成する装置の開発に成功し、人が腰を据えて生活できるようになった。
惜しむらくは地球とほぼ同じ大きさで自転速度も変わらないこのエンドだが、太陽と同じような働きをする恒星が存在しないため、光も人工的につくられている。
だからカッツ達は地球で感じる事の出来た太陽の明るさと暖かさを知らない。そのほとんどが偽物の、地球が青々と存在していた頃の名残を求めつつ作られたものばかりだ。
作品名:Minimum Bout Act.01 作家名:迫タイラ