オリーブの枝
……ぴたっと声はなくなり、不気味に静まりかえった。はぁ、はぁ、はぁ、という息の切れた自分の声だけがこだましている。
再び視界が開けた。周りを見渡すと、たくさんの人がこちらを見ている。ふと気づくと、地獄ではなく、鉄格子の牢屋の中にいた。
ほら、こいつきちがいだよ。やっぱりそうか、きちがいか。まともじゃないもんね。仕方ないか、きちがいだもんね。
鉄格子の向こうで言葉を浴びせられる。いくつもの冷たい目線が体を貫いた。ふと両手に目をやると、ドス黒く染まっていた。
やめろ、俺はきちがいじゃない!きちがいじゃないんだ!そんな目で見るな!
外の奴らは、犯罪者を見るような目でこちらを見ている。もうだめだ。疲れ果ててしまい、再び倒れこんだ。そして天井を見る。
何もかもが嫌になって、ゆっくりと目を閉じる。あぁ、このまま死にたい。こんなことを頭の中で思い浮かべた。
ふっ、と支えていた床が消え、浮遊感を覚えた。これでいいんだ、そうこれで……。
トクントクントクン……。心臓が脈うっている。これが生きている証。あのとき手で感じたこの感触。そしてこれが消えていく感触も覚えている。この手が――。
それが頭に浮かんだ瞬間、体に異変を感じた。誰かが上に乗っかっている。誰だ?目を開けてみる。
やはりそうだったか、思った通りだ。気づくとベッドの上で横たわっていた。上には女性が馬乗りになっていた。
「よくも、――したわね!」
彼女の目には怒りが溢れていた。思った通りだ。それでいい。
「よくも……よくも……よくも……!」
夕暮れ時の病室でふたりっきり。窓が少し開いていて、隙間風が吹いていた。そう、あのときと同じ。
首を絞められた。そう、あのときの彼女と同じ。ゆっくりと体重を乗せ、一気に押し込む。首が絞まって、息が出来ない。声をあげたいが、声にならない。逆に嗚咽になって余計に苦しい。
あ……あ……あぁ……あぁ……。意識が遠くなる。徐々に彼女の顔が見えなくなる。もう、体が言うことを聞かない。視界が暗くなる。そして、最後に見た彼女の顔――。