オリーブの枝
「来たよー」
軽くノックをして私の部屋に入ってきた。
「座るね」
そう言ってペタンと座る。
「今日ね、仲山くんに告白されたんだー」
何の前触れもなく、いきなり言った。特にアクセントをつけず、嬉しそうではなかった。
「好きだから、付き合ってほしいってさ」
「そっか、それはよかったね。確かに仲山くんとは仲良さそうだったしね」
私は無難な言葉を捜して返答した。正直特に興味がなかった。仲山は確かにかっこよくてクラスの人気者で、麻美とはぴったりではあった。ただ、それだけ。
「うん、ありがとう。まさか仲山くんが私に……なんてね」
麻美は顔を上げて、くすっと笑った。
「私、断っちゃった」
「え?」
意外だった。断る要素は何もないと思ったが。しかも、断ったと言っている麻美の顔が妙に楽しそうなのだ。
「私、そんなに魅力的に見えたのかしら?ねぇ、どう思う?」
麻美は四つんばいになって、私に顔を近づけてきた。実に小悪魔的な表情で。
「花ちゃんから見て私ってどう?」
「ど、どうって……」
私は後ずさりした。私の顔をまじまじと見てくる麻美。こんな麻美ははじめてだ。
「私ね、男の子に興味ないの」
私は驚いて唾を飲んだ。興味という言葉に変な妄想を掻きたてられた。
「これは、花ちゃんだけに話すけど、昔パパにいじめられたの」
「いじめられた……?」
「そう、いじめられてたの」
そっぽを向いて他人事のように話す。
「パパは私とよく戯んだわ。パパが好きだったのは、体操着だったかな。特に上だけ着て、下は裸っていうのがお気に入りだったみたい。その状態でいろんなところ舐め舐めされたりしたよ」
舌をべぇーっと出して言う。そしてぴちゃぴちゃ音を立てて舌なめずりをした。
「と、まぁこんな感じに至るところを舐めまわすわけ。すごいでしょ?」
私はただただ頷くだけだった。そうだよ、この子も施設に来たんだから、事情があったんだよ、と自分に言い聞かせた。
「それだけじゃない。パパの手は私の体を弄り、私の大事な処を汚した。何度も、何度も……」
相変わらず淡々と話し続ける麻美。私は何かに憑りつかれたようにじっと話に耳を傾けていた、聞きたくないのに。
「ここまでは、ただの父に虐待されるかわいそうな子。でも、まだ話は終わらないの」
微かに笑みを浮かべて話し続ける。
「パパの汚れた手の矛先は私だけじゃなかったの。この意味わかる?」
小首を傾げて問いかける。私はぶんぶんと首を横に振った。
「パパは他の子も家に連れてきたの。ナンパしてきたり、お金を渡したりしたんだと思う。そして……まぁそういうこと。いろんな子を見たけど、高校生くらいの子が多かったかな」
虐待――そう虐待だ。これは虐待。親というものを知らない私でもこれが普通の親がすることではないということはわかる。私の場合は、どうなんだろう。
「それで、私は男の子に興味ないのっていう話に戻るけど」
声のトーンが少し低くなった。
「パパの連れてきた子たちって、みんなかわいい子が多かったのよ」
遠くのほうを見つめ、妄想にふけっているのか、悦に浸ったような目をしている。
「最初はパパに言われて仕方なく遊んでたんだけど、だんだんそれが愉しくなってきちゃってさ!なんかこう、とても感覚的に気持ちがいいというか、フィーリングが合ってるというか……!」
ばっとこちらのほうを向く。私のことを瞬きもせずじっと見つめている。その目に吸い込まれそうだ。
「ふふっ、大丈夫よ。心配しないで。痛くしないから」
おもむろに麻美は服を脱ぎ始めた。まぶしい白い肌がつるっと露わになった。
麻美ちゃん……?何してるの?くすぐったいよ……あぁ……なんか息が上がってきたよ……んんっ……んん……。
……なんてね、これ以上は恥ずかしいから話さなくていいでしょ。