オリーブの枝
「花ちゃん、一緒に帰ろ!」
「うん、いいよ」
だいぶ学校に慣れた様子の麻美だったが、帰りはいつも私と帰っていた。その日もいつものように笑顔で私に声をかけ、私の手を引いた。
「今日も学校楽しかった!」
「そう、それはよかったね」
私は、そのときも何気なく相槌をうったつもりだった。
「花ちゃん、元気ないの?」
「え?別に普通だよ」
「いや、なんか元気ないよ花ちゃん。声聞けばわかるもん」
「そうかなぁ、麻美ちゃんが元気過ぎるだけだよ」
「ははっ、そうだね。元気でこそ私だもんね!」
両手を広げてくるっと回ってみせた。
「ちょっと羨ましいな。私はそんな風にはなれない」
ため息交じりに私は言う。
「そっか。じゃあ私の元気少し分けてあげるよ」
そう言って、麻美は私のほうを向いて立ち止まった。そして私の前髪を分けて、おでこにチュッとキスをした。
「え、あ、麻美ちゃん……」
あまりに急な出来事だったから、私は何にも言えなかった。麻美がした行動を認識するだけで精一杯だった。
「はい、これで元気注入できたかな?」
「あぁ、うん……」
何も考えずに口だけが返事をしていた。
「またまたどうしたの?ぼぉーっとしちゃって。ほら行こ」
麻美は再び私の手を引いて歩き出す。私はようやく我に返った。おでこに軽い感じとはいえ、女の子同士でキスをするのは、あまりに何というか、不自然というか、変、そう、おかしいことだ。幼いながら確かにそう感じた。当たり前といえば当たり前だが。この時彼女に対しての違和感が確信的なものとなった。
「今日も花ちゃんの部屋に行くね」
いつもと変わりがないように見えた。だが、何か不安だった。
「いいよ」
不安を募らせたところで何も解決しなかった。いつものように私は返事をした。