オリーブの枝
鳩子はパジャマの下をはいた。
「思ったより淡白だった」
「そっか」
「もっとロマンティックで、とろけるような感じだと思った」
「そっか」
「だってキスって愛情表現でしょ。自分の親愛の情を示す行為でしょ。そうだと思ってた。だから、してほしかった」
「そっか」
「もっと真剣にやってよ、ねぇ、ねぇってば!」
鳩子は忠司の胸ぐらを掴んで揺らした。
「私は愛されたいの!私をちゃんと見てほしいの!だからもっと!もっと示してよ!」
より激しく揺らし、強烈な心情を言葉に乗せて、忠司に浴びせた。忠司は黙っている。
「ねぇ聞いてるの!」
少し涙ぐんでいた。
「ねぇ志倉忠司!またぽっぽぽっぽやりなさいよ!ほら!私は鳩子なんでしょ?鳩の子と書いて鳩子、あなたがつけた名前でしょ!」
鳩子はありったけの声で叫んだ。どんどん激しくなっていく感情を自分でもコントロールできないようだ。
「あぁー!もう!なんとか言いなさいよ!」
「……少し落ち着けよ」
体から引き離して言った。
「なぁ鳩子」
「なに」
「そんなに怯えなくていいよ」
「怯えてない」
「強がっているけど、寂しいんだろ。さっき言ってたじゃないか、愛されたいって」
「……そうよ、それの何が悪いの?」
鳩子は俯いた。
「いいことだ。誰もが思うことかもしれない。ちょっと鳩子はその気持ちが強いみたいだけど」
忠司は言い聞かせるように言った。
「だって、今まで誰も……見てくれなかったから……」
「いろいろと苦労してんだ」
「当たり前じゃない」
「話してみろよ、少しは楽になるかも」
鳩子は黙った。何か葛藤しているのだろうか。
「……話聞いても、嫌いにならない?」
忠司は鳩子の頭を撫でた。
「そんな心配はいいだろ。鳩子は、鳩子だもん」
それを聞くと、鳩子は顔を上げた。頭を掻き、ふぅっとため息を1つ吐いて、とつとつと話し始めた。