オリーブの枝
「んん」
忠司の口元は鳩子の口元を通り過ぎ、耳元にあった。
「なんでキスがしたいんだ?」
耳元で囁く。
「唇からの刺激は脳にダイレクトに伝わるから」
「それだけ?」
ふふっと鳩子は短く笑った。
「私に何かを言わせたいみたいね」
「まぁ、今日の鳩子は実に変だからな」
「ちょっと困らせちゃったかしら?」
「いや別に、でも、なんか無理してるのかなぁって」
「なんで?」
「手が震えてる」
鳩子の手を握って言う。
「離して」
「なぜこんなことを?」
鳩子は、アッカンベーをした。
「かわいいね、それ」
「軽蔑してるのよ!」
手を振り払おうとした。
「まぁまぁ、それが本心ならいいけど、素直になれよ」
再び手を強く握った。
「もう!」
鳩子はむきになっていた。
「鳩子……」
2人は黙ってしまった。少しの沈黙の後、不意に鳩子が顔を近づけた。
「んん」
2人は唇を重ねた。静かに、穏やかに。誰にも邪魔されずに。
「んむ」
これが、キス。鳩子はキスを味わった。粘膜と粘膜を触れ合わせ、感覚すべてで感じる。唇を通して刺激が脳に伝わる。その刺激が鳩子の頭に新しい文脈を与えた。
「んー」
鳩子の吐息がもれて、忠司の鼻にかかる。
「ぷは、はぁはぁ……」
少し長めのキスで、息が続かなかったようだ。
「どうだ、キスの味は?」
「……しょっぱい」