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オリーブの枝

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「じゃあ、鳩子なんてどうだ?」
「は?ふざけてるの?」
 彼女はからかわれていると思った。さすがにそれはないだろう、といった口ぶりだ。
「お前確か旧約聖書読んだとき、オリーブに興味持ってたよね。そのオリーブの枝を、ノアが外に放った一匹の鳩が持って帰ってきたことから、ノアは水が引いたことを悟ったんだ。だから、鳩は平和の象徴なんだよ」
「それで、鳩子?変な名前、もっとかわいい名前がいい」
「まぁそう言うなって。多分、鳩子がベストだ。よし、早速呼んでみよう。おーい、鳩子」
 彼女はぴくりとも振り向かなかった。
「鳩子ちゃん、こっち向いてよ。ねぇ、鳩子」
 今度は寄り添ってみたが、まったく反応なし。忠司は懲りずに呼び続けた。
「鳩子ー、相変わらずつれないなぁ。実は鳩子ぽっぽぽっぽしてるんだろ?鳩子ぽっぽぽっぽ、ほら豆やるぞ。クルッククゥークルッククゥー、それオリーブをくわえておいで」
 手をパタパタさせたり、胸をぐんと張って鳴き声を出してみたり、鳩の真似事をした。忠司は、精一杯おどけてみせた。
「ぽっぽぽっぽぽっぽぽぽぽっぽ……」
「あぁもう、ぽっぽぽっぽうるさいのよ!」
 あまりのしつこさに、さすがに我慢できなかったようだ。
「え?なんだって!」
「だから、ぽっぽぽっぽうるさいのっ!」
「え?今なんて」
「だーかーらー、ぽっぽぽっぽ!」
「おー、鳩子がぽっぽぽっぽ言ってるよー!はははっはー!おもしれーー!!」
 忠司は腹を抱えて笑っている。
「何がそんなに可笑しいのよ!だからぽっぽぽっぽ」
「はーはっはははっはー!!やめて!腹が吹き飛ぶ!」
 今度は床を転がりまわっている。
「もう!なんか私1人がぽっぽぽっぽ言ってて馬鹿らしいじゃない!あんたも言いなさいよ!」
 彼女の顔はかーっと赤くなっていた。
「はっははっはは……え?」
「だから、あんたも恥ずかしい思いをしなさい!ほら!」
 彼女は立ち上がって、忠司を蹴りつけた。これまたいつになく乱暴な感じで、忠司には新鮮だった。
「いてて、わかったわかった。ついに鳩子ぽっぽぽっぽし始めたか!いいぞいいぞ!」
 実に楽しそうな顔をしていた。
「わけわかんないこと言ってないで、さっさっと馬鹿を晒しなさい」
「まかしとけ!ぽっぽぽっぽ!ぽっぽぽっぽ!ほら、鳩子も」
「なんで私も!」
「やんないとくすぐるぞ!そりゃ!」
 忠司は彼女にとびかかって、くすぐり始めた。
「はははっ!やめて!私くすぐり苦手!」
 彼女は声を上げて笑っている。だんだんお互い楽しくなっていって、2人でじゃれあっていた。
「ほらっ、手をパタパタさせて!」
「これでいいの?」
「ちーがーう、こうだよこう!」
「だから見えないんだって!」
 いがみ合っていた雰囲気から一転して、微笑ましい空気に包まれた。他に誰もいないこの部屋で。今思えば、鳩子がこんなに笑ったのは後にも先にもこのときだけだったかもしれない。

作品名:オリーブの枝 作家名:ちゅん