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オリーブの枝

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 目が覚めた。目を開けることはできないが、意識の中では起きている。上体を起こして床に足をつける。ゆっくりとスリッパの位置を確かめて履く。彼女も夢を見ていた。そう、『音と感触』の夢だ。視覚を失ってからそれを補うように他の感覚が発達したので、映像は見えなくても、細かな音や感触でその姿形を思い浮かべることができる。聴覚と触覚があれば、対象と自分との距離感や気配を感じてこともできる。彼女が見た夢もまた、実に不思議な世界だった。
 風が吹いていた。それは草や土を巻き上げて、上へ上へと吹いていた。風に誘われて彼女はここにたどり着いたのだ。ここは森の中だろうか、彼女は歩き出す。しっかりと地面を踏んで歩く。雨が降った後なのだろうか、少しぬかるんでいて歩きにくい。木々や葉の隙間から差し込む光が彼女を照らす。明るい光だ、実は夕立だったのかもしれない。耳を澄ませれば、音が全身に伝わってくる。ヒューと心地よく吹く風、その風に吹かれてカサカサと音を立てる葉、その葉からピチョンと零れ落ちる一滴、その一滴が乾いた土にじわっと染み込む。バサバサと羽を羽ばたかせ木に留まり、クルッククゥーと鳴く鳥。そしておとなしく一定のリズムで、トクントクンと脈をうっている自分の心臓。全ての物体の振動が空気の振動として、彼女に音を与える。彼女を取り巻く空気には匂いがある。言葉では言い表しにくいが、一連のしたたかさを持った匂いだ。混じり気のないそんな匂い。空気以外にももちろん匂いはある。音と同様に、彼女を取り巻く全ての物質が匂いを発している。ふと、彼女は1つの匂いに誘われ、その方向に歩き始めた。これは、ある草の匂いだ。彼女はその独特な甘い匂いが近づくにつれて、早足になった。そう、これは彼女の好きだった香りだ。彼女はしゃがみ込み、辺りを手探りでその葉を探した。そう、それだ。彼女ははっきりと見つけた。彼女はほんのり笑みを浮かべ、その葉を見入った。細長い柄の先に、小葉が集まって手のひらのような形だ。触って形を思い浮かべる。

作品名:オリーブの枝 作家名:ちゅん