オリーブの枝
「それで、はっと気づいたら、保護室に連れ込まれてた。多分発狂してたから、誰かに通報されたのかもね」
「なるほど。それより鼻かみなよ」
そう言って彼女はティッシュをくれた。
「どうもありがとう」
涙や鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭いた。
「ずいぶんと、苦労したみたいね」
「ん、まぁね。話せて少し落ち着いたよ」
「それはよかった」
相変わらず抑揚のない話し方だ。
「でも、まだ悩んでる。俺はまだ自分の罪を赦せてないし、夢に出てくる茜は俺を恨んで殺そうとしている気がする」
「難しい話ね。私からは、あなたがとった行動が必ずしも間違ってたとはいえないし、正しかったともいえない」
「俺は茜の思う通りにしてやりたかった。それは本心だ」
彼女は黙って聞いていた。
「だけど、本当は殺したくなかった。そりゃそうさ、好きだから。それも本心だ。多分俺は、自分は間違った行動をとったと思っている。それで自分を責めてるし、茜からも恨まれてると思う。だから苦しいんだ……」
自分で言って自分で納得していた。そう、自分が全て悪いんだ、自分には彼女を愛してはいなかったんだ、だって殺したじゃないか、恨まれて当然だ、そういう風に結論付けることで、逃げていたのかもしれない。
「いや、違う」
彼女が口を開く。彼女は忠司の手を握った。
「きっと彼女はあなたのことを恨んでいないよ。そこまで愛してもらえて幸せだと思う。あなたが死ぬほど彼女を愛していたように、彼女も死ぬほどあなたを愛していたのよ」
彼女はいつになく真剣に話していた。
「ね、それは疑いようのないことでしょ。大丈夫、怯えないで」
そう言うと、彼女はそっと忠司を抱き寄せ、頭を撫でた。
「ん……」
一瞬戸惑ったが、忠司は彼女を受け入れた。体を近づける。彼女の体は、華奢でしなやかなだ。忠司は彼女の温もりを肌で感じ、心臓の鼓動を体で感じる。トクン、トクン、トクン……あたたかい。
「本当にそう思う?」
「話を聞いている限りそう思うよ。茜さんのこと、今でも好きなんでしょ?」
「……うん」
「なら、それでいいじゃない。自分を責めすぎないで」
「今日は、なんか優しいね」
「特に意味はないわ」
彼女は耳元で囁く。
「ただ、悲しそうな顔をしてたから、元気を出して欲しかった」
改めて聞いてみると、心地のよい声だ。耳元で囁かれると、思わず緊張してしまう。
「私を、茜さんと思ってもいいのよ」
「ははっ、今日はどうしたんだい?でも、ありがとう。本当に……」