オリーブの枝
俺の愛した全てが、目の前で横たわっている、俺の目の前で。
「茜……?」
俺は……茜の首を絞めていた。気づいたときには、首筋は冷たく、脈もなくなっていた。
「う、うああああああーーーー!!!!」
信じたくなかった、俺の愛した全て、茜が目を見開いて、泡を吹いて死んでいた……!俺は、叫び声をあげて床に倒れた。全身の震えが止まらない。なんで、なんで、なんでこんなことに。再び立ち上がって、ベッドを見る。首筋にはくっきりと残る、絞めた跡。そして、自分の手に残る、確かな感触――。
俺は震える両手で、果物ナイフを手にした。もう正気じゃなかった。死のう、こんなの、死んだほうがマシだ、死ね自分。俺はナイフを突き立てた。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……。
心の中で言いながら、ナイフで刺そうとしたが、体が動かない。今更死ぬのがこわいのか?そんなバカな!なんで、なんで、なんで言うことを聞かない!心臓の手前でナイフは止まっている。しょうがない、手首を切ろう。俺は手首を切った。
「あれ、死ねない……死ねない……死ねない……!」
俺は手首を切りまくったが、いくら切っても血が出るだけで致命傷にならなかった。
「ああああー!死ねない!死ねない!死ねない!」
俺は奇声を上げて、全身を切りまくった。両手両足を切ったが、全部深手にはならなかった。血が部屋中に飛び散る。全身血だらけになったが、俺は自分の足でちゃんと立っていた。
「はぁはぁ……」
なんてことだ。死にたいのに死ねない、死ぬのが怖い。こんなにも悲しくて苦しいのに、まだ本能では生きたいと言うのか?絶望だ。俺はその場から逃げ出した。どこまでもどこまでも走った。どこまでもどこまでも、走れる限りずっと。涙で前が見えなくても、両手両足の傷が痛んでも、ひたすら走り続けた。全てを忘れたかった、全てから逃げてしまいたかった。ついに、俺は倒れた。すると、目の前が真っ暗になった。何にも見えない、本当に真っ暗だった。暗闇の中で、俺は、何度も自分を殺した。闇の中では簡単にいくのにね……やっと、悪い夢から覚めるよ。