オリーブの枝
「俺って、やっぱりおかしいかな」
「さぁ、どうだろ。少なくても、ここにいるくらいだから普通ではないかも」
「やっぱそうか……」
「でも、そんなことは他人がうんぬん言うことじゃないと思う」
「そうかなぁ」
「一応会話が出来るんだから平気よ、きっと」
「そう言われると、ちょっと安心かも」
「落ち着くことね。それより、最後に出てきた人は誰なの?」
「俺の彼女」
指の跡がついた首筋をなでながら話す。
「名前は?」
「森里茜」
森里茜。その名前を口にするのは久しぶりだ。下の階にいるときも、名前は避けていた。少し気持ちが落ち着いてきた証拠だ。下の階でこの名前を口にしていたら、正気でいられなかっただろう。
「その人は今どうしてるの?」
「さぁな」
「別れちゃったの?」
「あぁもう一生会えない」
「どういう意味?」
体が震えだした。止めようと思っても止まらない。あのときの情景が頭の中で、徐々に蘇ってくる。彼女の顔、彼女の目、彼女の鼻、彼女の口、彼女の首、彼女の手、彼女の声、彼女の呼吸。彼女を取り巻く全ての要素が、今ふつふつと思い出されていく。より鮮明に、より生々しく。
涙が頬をつたい、下唇を噛んだ。