ライドガール
と笑顔を作って、無理やりに冗談にしてしまう。
「……無神経で悪かったな」
「いまに始まったことじゃないけどね。人のことは気にしないで、もう部屋に戻りなよ」
カズートはため息をついた。
「部屋ならおまえの分もとってあるんだが、これも無神経ってことになるのか?」
「昔なじみなんだし、わたしの考えそうなことくらいわからない?」
「……借りは作らない、か」
「そういうこと」
「わかったよ」
と言いつつ、馬房を出たカズートはなにげなく下手からなにか投げてきた。
小さな弧を描いて胸にぶつかりそうになったそれを反射的に受け止めて、リウは両手の中におさまった物を見た。
「……鍵?」
「うちの馬車のだ。馬房の横に、夜番用の簡易ベッドがある。もう馬はいないから、いまは空いてる。ここよりはましだ」
眉をあげたリウが言い返すより早く、カズートが言ってくる。
「空き馬車くらいで貸しだなんて思わないから、これくらいはさせろ。意地張って馬房で寝てる大ばかが昔なじみかと思うと、こっちまで寝つきが悪くなる」
「……ん、ありがと」
「おう」
カズートは、去年最後にランダルム牧に来たときと同じように、背中をむけて手をひらひらさせながら厩舎を出て行った。