ライドガール
「だから勝って牧を続けたかった。もし牧を続けられれば、これからも馬を飼っていられれば、カズートとほんのちょっとでもつながっていられる気がしたから。もちろん全然違うけど、でもまだ少しは近い世界にいられるって思えたから――そんな夢を見てた」
ランダットにとって、そしてシャルスにとって〈天馬競〉が手段だったように、リウにとってもやはり〈天馬競〉は手段だった――自分の夢のための。
けれどもそうした夢すら許されないほど、ふたりの世界は違っていた。
「……バルムを、もらってくれないかな」
つぶやくように頼んで、大きく息をつく。
自分がすっかりからっぽになってしまったようで、もう何も出てこなかった。立っているというよりは、周囲の空気に押しやられて立たされているような気分だった。
さらさらと草が鳴っている。
草を鳴らす風は、からっぽになったリウの心も吹き抜けていく。
バルメルトウはリウにとっては間違いなく天馬だった。リウを乗せて風となり、決して届かない空までも駆けていくこともできるような、そんなひとときの夢を見せてくれた。
「……もらえばいいのか」
風の中にカズートの声がした。
「ん」
ありがとうと言うことすら、リウは忘れていた。もう自分は乗ることのできない風をただ見つめていた。
あの、というためらいがちな呼びかけに、リウは顔をあげた。
少年が困り顔を隠しきれずに立っていた。
「お送りするよう、カズート若さまから言いつかりました」
リウは少年のむこうを見た。
広大な牧には風だけが吹いていて、カズートもバルメルトウもすでに姿を消していた。
「……ありがとう」
最初に言うつもりだった言葉がやっと口を出た。