ライドガール
「平気。わたしがあんまり変な落ち方をしたものだから、この子まであーあって顔になってたよ。落ち方の上手下手も、馬ってわかってるよね」
シャルスは鞍を下り、バルメルトウの手綱をといてリウに渡した。
「――どうやって、また乗れるようになったんだい」
手綱を受け取りながら、リウはシャルスとバルメルトウに笑ってみせる。
「びくびく怖がってる場合じゃないって、わかっただけ」
「それにしたって楽なことじゃなかったはずだ」
「ん、だからなにかする前には絶対乗るようにしたの。だって毎日のご飯と毎晩の眠りがかかってたら、もう乗るしかないでしょ?」
シャルスはかすかに息をつくと、振り返った。
「昨日ジョスリイの町で、ランダットに会ったんだ。そろそろ、って聞かれたよ」
「シャルスはなんて答えたの?」
「答えたくないな。結局間違っていたんだから。ここの帰りにすぐにランダットをつかまえて、訂正するつもりだ」
「ん、よろしく」
シャルスが顔を向けた。
「半月後、マーセブルッツの〈天馬競〉がある。それでいいのかな」
「わたしはね。それに、バルムも」
リウはバルメルトウに微笑んだ。
漆黒の毛を輝かせたバルメルトウの体はしなやかに引き締まり、風に首を振り立ててたてがみをなびかせたところは、いますぐ思いきり走りたくてうずうずしているようだった。
「半月後じゃ、遅いくらい」
マーセブルッツの〈天馬競〉は平坦な競路が特徴で、ただ三走路の最後に、馬上からは足もとが見えないほどの急な長い下り坂がある。ここまで走ってきた馬の脚に大きな負担をかける危険な場所で、前年の〈天馬競〉ではここで二頭の馬が前脚を折り、乗手も鞍から放り出されてまだ普通には歩けないという。
今年の〈天馬競〉は接戦だった。その坂にまでもつれこんだ三組の勝負は、坂道に臆するどころか、傾斜を無謀なまでの速さに変えて駆け下った馬と乗手の勝利で幕を閉じた。
「あいつは悪魔の馬だ!」
二位で入ってきた乗手がうめいた言葉が、勝者を讃えていたマーセブルッツの広場をさらにわっと沸かせた。
頬をうっすらと染めたリウはふたつめの、そして今度こそ金色に輝くリボンを手に入れた。