ともだちのしるし
その瞬間、心臓が大きく鼓動を打った。それは……、それは私が描いているこの女の子が、藤ノ宮さんをイメージしたものだったから……。憧れの人を描こうとしていたから。だけど、私が絵に描いたのは"青い髪の女の子"で、"藤ノ宮琴葉"じゃなかった。本当は、本当は描きたかった。描きたかったの。だけど、自分の心をストレートに表現する事を躊躇って、本人を描く事がどうしても出来なかった。
好きなものを好きと言えて、それをこんなにも素直に表現出来てしまう鈴川さんが羨ましくて……、そんな子が、私が大好きだからと、絵を描いてくれた事が……、その事が……。
「あ、あれ……?」
急に視界がぼやけた。どうしてだろう、涙が溢れてくるなんて……。この涙は何? 何の涙? 自分が描けない絵を彼女がいとも簡単に描いたから? 自分の臆病さに? ううん、多分違う。これは……、この涙は……。
「どうしたの? おねえちゃん……」
不安そうな声。気付かれないように、顔を背けて零れようとしていた涙を指で拭う。
「ごめんね。白、絵がじょうずじゃなくって……」
「ううん、そうじゃない。そうじゃないよ。あのね……」
「ありがとう……、白ちゃん」
『ありがとう』も、『白ちゃん』も、私の耳に心地良かった。きっと、自然と口から出た言葉だったからだと思う。
素直で、無垢で、幼い子供のようで、どこか懐かしくて……。冬の雪が、春の暖かな陽光で少しずつ溶けていくように、今まで固まっていた私の心が、ゆっくりとやわらかくなっていくような、そんな気持ちが私の中に灯っていた。