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Please tell me.

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 いつからだろうか、彼女の、望月のことが気になるようになったのは。
 初めて出会ったのは去年の夏、高校一年生である彼女の成績が不振だという理由で夏期講習を受けたしたその日だった。その年の春に大学へ入学したてで、世話になったこの塾で講師のバイトをしていた僕が教えたのだった。その時、僕はこの理知的で大人びて見えた彼女が成績不振だとは信じられなかった。まあ、事実彼女の成績は最低ということはなくとも、けして良いという位置にはなかったのだが。
 それから、僕のシフトと彼女の塾の日程が重なった日が多くなり、大概は僕が持つようになった。
 始めはインパクトだと思う。彼女の見た目は頭が良さそうで、真面目そうでもあったが、結局僕の見る目がなかったことを知らしめてくれた。別に不良とかギャルとか言われるような子ではないが、極度に面倒くさがりだったのだ。
 以前、問題を解説していた時のこと。二次関数の基本的な内容さえ分かっていれば何とかなるレベルの応用問題、真っ白な答案に溜息を吐きかけた僕だったが、観念して解説を始めた。
 すると、何故だか解説をした途端にすらすらと同レベルかそれ以上の問題を解き始めた。
 何故そんなすぐ理解できるのに、成績が悪いのかと問うと
「ノート取るのが疲れるから嫌なんです。課題も解答を丸写ししてますから」
と、淡々とした声と表情で返された。つまり彼女はこれまでずっと授業中に聞きかじった内容と、教科書を読んだだけの知識で、なおかつ課題すらやっていない状態でテストを受けていたことになる。そしてそれを分かっていてなお、自身で勉強しようとは思わなかったようだ。
 そりゃあ、あんな成績になるわけだ。この塾では生徒の学校の成績、模試の点数、偏差値を講師が知っていなければならないので僕も彼女の成績表を見ている。
 驚いた。見た目と成績のギャップがひどすぎて、僕の抱いていた幻想は粉々に砕け散った。
 しかし、最近は彼女の面倒くさがりもなりを潜めてきた。もちろん、ガリ勉に変身したのではないが、少しずつだが学校の授業ではノートを取り、課題もこなし、予習復習もしているようだ。
「先生の教え方が上手いんですよ」
 以前、彼女の成績が向上した頃、僕がそのことに言及した時にそんなことを言われた。
 普段は見れないとても綺麗な笑顔で。彼女は褒められたのが嬉しくて、でも照れくさかったのだろう。本当に嬉しそうで、ちょっとだけ顔が赤かった。僕もつられて嬉しくなって、それに、どうしようもなく彼女の笑顔に心が騒いだ。
その時かも知れない、僕が彼女に恋をした、そんな自覚を持ったのは。
作品名:Please tell me. 作家名:硝子匣