ブローディア冬
冬の番外-魅入る
石間の家ではうちとちがう新聞をとっている。石間が部屋を片付けている間、違う角度から見た社説が興味深くって、じっと文字の羅列に見入ってしまっていた。
「木野」
「………。」
「きーのー?」
「あ、うん!」
石間は俺の背中に唇をつけて俺を呼んだ。背中の真ん中の一部だけがほんわりと湿気って痺れて、不思議な感じ。それに妙な罪悪感を感じて振り返ったら、コーラの入ったグラスを手に持った石間が笑ってこっちを見ていた。
「木野は新聞とか読むんだな」
「割りと好きなんだ」
そう一言返しただけで石間の部屋につく。貰ったコーラを一口含んで顔を戻したら、やっぱり石間はこっちを見て笑っていた。
「石間は?」
「なに」
「なんか読んだりするの?」
「読まないなー、マンガくらい」
図書館に誘ったくせに。しかも結構国語が得意みたいだから、実は読んでるんだと俺は勝手に決め付けている。
「石間は何が好きなんだ?」
マンガっていったって、石間の部屋には野球マンガ一種類しか置いてない。
「木野?」
「なんだ」
「だから………木野」
「………はあ、なんだ? もう。いいや」
「は? なにそれまじ。よくないじゃん」
「意味分からないよ。なんなんだよ」
石間はよく話を逸らすからなあ。ベッドに座っていた石間が立ち上がって俺を見下ろしたら、すごい迫力だった。少しだけ怖い顔の石間は、俺の向かいにしゃがんで舌打ちをする。
「木野」
「なんだよ…」
「俺告白したんだけど」
「こくはく?」
くりくりとひねられて癖付けされた石間の髪が痛んで光っていた。石間みたいな人達も、告白するんだ。付き合うって飾りみたいなものかと思っていたりした。いまだに俺はそんなことを考えている。ややしばらくして、石間が何を言いたかったのかを理解した。
「木野、返事しろ」
「え? うそ」
石間が床を蹴る。俺は襟元を掴まれて机の角に頭をぶつけた。
「ほんと意外にねえよ」
「付き合ってるのに好きって言うと、好きの二乗だな」
ふるふると怒りの形相で俺に詰め寄っていた石間がこてんと首をかしげて、がっくりとうなだれた。
「木野って幸せな奴」
「石間のがうつっただけ」
今のは否定する所だよ、と石間が俺のブレザーから手を離した。
「石間は今日、機嫌いいな」
「いつもいいよ」
さっき怖い石間になってたのにな。お返しに石間の襟元を掴んでみたら、意外と首が太くてびっくりした。ぐっと盛り上がった筋を見つめていたら、石間が笑った。
「木野、俺は新聞じゃねえぞ」
「え?」
「新聞読んでた時と同じ顔」
そう言って更に首の筋を際立たせた石間は、俺の前髪を鼻で掻き分けてほっと息を吐いた。そこは俺の背中じゃないぞ。ゆっくりと降りて来た唇がおれの唇にくっついて、ゆっくりはなれる。
「木野、好きだ」
「うん、好きだ」
外の風で冷えた体が、石間の吐息で温もった。
おわり