ブローディア冬
歯ブラシ立てには、『園』『るゐ』『進二郎』『晃』と書かれた歯ブラシがそれぞれ一本ずつ立っている。おばあちゃんが俺たちがくる時に用意してくれたものだ。
「なんで俺がピンクなんだよ」
「ばあちゃん、オレンジが好きだからさ」
ちなみに俺はブルー。
ばあちゃんちの最後の夜、石間と並んで歯を磨きながらちょっとした思い出話をしていると、少し寂しくなった。
「これ、記念に欲しいって言ったらおばあさんに怒られた」
「歯ブラシ?」
「そう。……また来い、だってさ」
「ああ……そういうこと」
いくらルイがいると言ってもばあちゃんは寂しがり屋だ。なかなか俺以外の親類が訪ねて来ることもないみたいだし……。
「シン、イシマ」
「あ、ルイ。」
ルイはグリーン。
片足を少し気にしながら歩み寄ってきたルイは、ブルーの目で俺と石間をじっと見て笑った。
「サミシくなる。またきてね」
「はい」
「うん」
口をゆすぐ。
顔を洗い終えた石間がルイに一歩近付いて、トンと胸に指を置いた。
「石間?」
「ルイさん、もう木野にキスすんなよ」
ルイがプッと噴き出した。
「ななな何言ってんだよ石間」
「あいさつのキスなのにネ」
「そうそう、あいさつだろ……」
「ネー。」
石間がギラッと肩越しに俺を睨む。
「木野はルイさんにキスされたいってわけ」
「はあーっ?」
ついにルイは腹を抱えて笑い出した。イシマってば、と肩をたたいて、頭をかく。
「イシマはコドモだね」
「なっ」
「でもシンとはお似合いだよ。応援してる」
「嘘言うな」
「ホントだよ」
「うそだぁ……」
俺も急いで顔を洗ってしまって、二人の間に入った。ルイが頭に手をやったけど気にしなかった。
「石間っ」
「なんだよ」
「石間としか……キ、スしないよ」
「シン」
「……俺からは」
ガクーッと、音が聞こえるようだった。石間は拳を握り締めて、耐えるようにしている。
「だってルイと石間への好きって、違うから」
「……マジかよ」
「さあさあ」
ふうっと長く息を吐いたルイが手を叩く。俺たちは顔を上げた。
「両想いで、それ以上なにを欲しいのイシマ」
「う」
「シンのこと大切にしないと……知らないヨ?」
「うっうるせーよ!」
石間はなんだかぷりぷりとしながら客間に入って行ってしまった。フフンと鼻を鳴らすルイの気持ちはよくわからないけど、最後の夜だな、と思ってルイとハグして、頬にキスを受けた。
石間とも、最後の夜なんだな。と、思った。