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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア冬

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 ふう、と大袈裟に息をつきながら後ろ手に襖を閉める。そのまま石間は鞄からパジャマを引っ張り出して、無言のまま着始めた。

「石間、無視かよ……なんで出てったの」
「ヤボ用」
「俺の話より大事な用?」
「……トイレっすよ」

 今度は俺が溜め息をついた。さっきの言葉は石間は無視しても、俺は忘れないんだから……

 俺が布団に入ったら、石間もすぐにストーブと電気を消して潜り込んで来た。冷たい足先に太ももを蹴られてビクッとなる。でもそれだけ、石間は俺の近くに寄っているってことだ。

「まず木野を……抱き締める」
「は、はい」

 びっくりした。石間は無視しなかった。
 ゆっくりと上ってきた腕が俺の肩を掴んで寄せた。で、そのまま背中にまわる。ドキドキしながら俺もそうっとその下から腕を差し込んでみた。やばい、緊張して目が見えない。暗いせいだけじゃない。
 石間の体は、縦に長い分、がっしりとしていた。それは触ってみて初めて分かることだから、少しの優越感に口元が緩んだ。

「ん」
「ん」

 石間はそんな俺の唇に唇をくっつけてきた。

 ドキドキ ドキドキ

 心地いいような、悪いような、逃げ出したくなるような思いをふり払って。

「木野」
「……うん」
「もっとしたいってこと」
「………。」

 そうだ、ここまでは、やったことあるんだ。きっとこのあり得ないほどのドキドキは、期待感ってやつで。
 恥ずかしくて石間の目を見ずに頷いた。

「木野」
「うん」
「俺と同しこと、しろよ」
「うん?」


 はーっと、どちらからともなく息が吐き出された。


「石間」
「できるっしょ」

「………。」


 股間がほわりと石間の体温で暖まっていた。石間に促されて俺も手を伸ばした。舟形にして、覆ってみる手も石間の体温で暖まった。
 やっぱり二人で息を吐いた。

「なんか、暑いかも」
「木野」
「なに」
「俺と木野の体温が合わさってるからだよ……」

「うん」
「うん」

 俺がぶるっと震えたから、石間はキスしてきた。舌は入れないで、なんとなく長く合わさっている。

「石間、俺……トイレ」
「木野」
「なに……」
「一緒に行く」
「えっ」
「俺もトイレ行くから」

 石間はまたキスをして、もぞもぞと布団から這い出た。

「やだからな! 石間先に入れよ!」
「は? 意味ないし。てか話が違う」
「なんの話がだよ」
「ここで大声で言っていいのか? 木野はぁー俺とぉー」

「イシマうるさいよ」

 トイレの前で言い争っていると、ルイが欠伸をしながら二階から降りて来た。金髪碧眼のくせにごついドテラを着ている。石間は俺が気を抜いたのをみて肩に抱き付いた。

「うわあルイ! って、石間やめろよ!」
「ルイさんには関係ないっす」
「石間。離せよ」
「木野が俺の言うこときくんならな」

 たまらなくなって俺は顔を覆った。もうやだよ。

「ばっか、ルイが見てる」
「別にいいじゃん。ね、ルイさん、おやすみなさい」

 ルイは溜め息をついて俺たちに歩み寄った。でかい手が俺の頭をなでて、なんとなく石間がムッとしているのを感じる。

「まるで子ネコだね」

 そう言って、ルイが俺の額にキスした。よくわからないけど、キスの音がしたから。

「かわいいシン」

 石間がなにか怒鳴る前に、二人くっついたままトイレに押し込まれた。
 ドアが閉まる。

「……仲良くね」

「………。」
「………。」

 階段を上っていく足音を聞きながら、俺と石間は狭くて冷たいトイレの床に座り込んだ。石間のパジャマの裾をつかんでみると、その手を上から包まれる。でもどうしても、顔をあげることができなかった。

「なんなんだ……木野なにキスされてんだよ……」
「ごめん」
「ルイさんじゃなくて、俺のなんだからな」

 顎を掴まれてばっちりと目が合う。

「あ、ちょっ、と」
「………。」

 石間は額、瞼、鼻……と唇を押しつけていって、口をよけて最後に抱き締めた。

「石間」
「なに」

 いま良いとこなんだから、という感じがした。

「石間、愛してる」
「……え?」

 石間が目を剥いた。

「あい……や、もう言えない」
「俺も……愛してる」

 愛してるって言ってしまった。でも石間も俺にそう返してくれて、嬉しい。素直になって、でも嫌われなくてよかった。
 ほっとしたら急に気分が興奮してきてしまって、どうしたものか、しゃがんでる石間の前に手を潜り込ませた。さっきみたいに。

「うお!」
「石間」
「なっ、お前イキナリ触ったら……」
「だって。愛してる」
「いや俺だってそうだし」
「うん」

 石間が俺に持たれかかってきた。背中だけが、冷たい。


作品名:ブローディア冬 作家名:しらとりごう