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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア冬

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 よくわからないうちに晩ご飯を食べ終えて、でもその後石間と二人きりになるのが怖かった。

 ルイとふたりで吹雪の後の除雪をする。
 重い雪を持ち上げて山に向かって振り上げる。持ち上げて、振り上げる。道をつけているルイが俺のところにきて、肩を叩いた。

「シン、もういいから入ろう」
「……あ、もう……?」

 ザクッとスコップを斜面に挿す。

「そんなに困たカオしないで」
「してないよ」
「してる。イシマに伝えよう?」
「……なにを?」

 ルイの手袋に包まれた両手が頬を挟んできた。

「愛してるって」
「愛」

 俺が顔を無理やり背けたから手からは逃れられた。でも次は頭の後ろを掴まれた。

「ルイ?」




「え、ちょっとル。ん!」
「………」


「やめろっ……んんん!」
「………」

 バホッ。
 ミトンのような俺の手袋がルイの顔を叩いた。ルイが、俺にキ、キスしたんだ。
 よく分からないぼうっとした頭が、きりきりと締まっていくような感じがした。

「シン、知ってるよ。イシマとこうしたいって」
「嘘!」
「素直になってイシマに言わなきゃ」
「嘘だ……。だって誰にも秘密なんだ」

 ルイは白い息を吐いて笑った。

「誰にも言わないヨ」
「……それに俺ちゃんと好きって言ってる」
「それだけ?」
「そ、それ以外にどう……すんだよ」

「恋人のキスして、恋人のハグ。シンはしたいんでしょ」
「し」
「したいってイシマに言うんだよ」
「………」

「……後片付けは一人でやるからシン、先に家に入ってて。」
「………」


 頭の中がまたグルグルしだして、めちゃくちゃだ。
 ギュウギュウと雪を踏み締めて玄関まで歩く。扉をギッと開いたら石間が立っていた。見ていただろうか。見えないか。

「石間。……そんな薄着で……風邪引くぞ」
「ひかねえし」

 ホラ、と手のひらでチョイチョイとされて、導かれるように長靴を脱いで廊下に出た。上着をハンガーにかけている間に、石間がマンガを片付ける。あいた布団の上に、向かい合わせで座った。

「木野、ほっぺた真っ赤」
「うん?」

 思わず手で頬を隠す。さっきのルイとのことを思い出した。
 ルイとキスした。
 浮気になるのかな。いや、ゴーカン……いやいや、相手はルイだし、嫌じゃなかった。

 嫌じゃ……

 嫌だった!!

 急に腕でゴシゴシ唇をこするから石間は慌てた。でも嫌だった!! 石間じゃないと、嫌だった!!

「木野、どうした」
「ううん」


 嫌だった……。
 なんでキスしたのルイ。
 嫌いだ。優しいルイは好きだけど。


「きっと嫌いになる」
「木野?」
「嫌いって言うのも言われるのもツラい」
「まあそうだけど」

 そっと石間の大きな手が俺の胡座をかいた膝に乗せられた。ブルッと震えてしまった。

「でもさっきどうしたの。ルイさんに泣かされたとか、許せねえ」
「……許して」

 膝の上で手の平は拳になっていた。

「ルイさん、木野のこと好きなくせに泣かせたとか」
「……ちがう。俺が悪いんだ」

 その拳を両手で包んで、石間の膝に返す。

「石間」
「なに」
「頼みがあるんだ」
「? はあ。なに?」

「布団の中で抱き締めて、キスしたい」


 石間は無言で立ち上がって、早足で客間から出て行ってしまった。

 きっと嫌われた。
 ツラいけど、涙はもう流さない。

作品名:ブローディア冬 作家名:しらとりごう