ブローディア冬
「石間、国語教えて」
「えー」
今日はふたりで頭を付き合わせて、冬休みの課題をこなしていた。数学のワークはあらかた終わってるんだけど、国語のプリントでどうしてもわからない物語がある。つかみ所のない文章なんだ。
「国語はフィーリングで解いてるから説明しようがない」
「才能かなあ」
石間は安易に答えを教えたりはしない。まあ、石間の回答がマルかどうかはわからないけど。
「じゃあ木野は日本史の34番できた?」
「うん」
「マジで。何に載ってたかだけ教えて」
「用語集だよ」
「1837奴だよ平八郎」
「(これそういえば特別課題にでてたのと同じ物語だ)」
「1874直せと民権運動」
「う……ん」
「1875ったい交換条約」
「(あ~)」
「ん?」
「(気が散る)」
「どこに1895予約だっけ」
「……下関」
「あっそうそう。」
「………」
「………。悪い、口に出してた」
「うん、出てた」
石間は日本史の一問一答のプリントをまとめて、笑いながら伸びをした。
「息抜きに、いいこと教えてやろっか」
「なに?」
これをよく見て、と石間はプリントの上に消しゴムを乗せた。なんの変哲もないモノけし。
俺は首をかしげて身を乗り出した。
「ん♪」
「む!」
「俺の勝ちだな、木野」
勝ちとか負けとかないよ……な……。
石間はキスしたその唇をペロっとなめて、鼻歌まじりで廊下へ出てしまった。
なんだよ。これなら歴史の語呂合わせを聞かされてる方がよっぽど集中できる。
しかたなく国語の課題は諦めて、石間を追って立ち上がった。
トイレには、ばあちゃんが習っている詩吟の歌詞が貼られている。
晩ご飯をつくるばあちゃんの横に、トイレから出てきた石間がばあちゃんの詩吟を真似ながら並ぶ。ばあちゃん、嬉しそう。
ルイは肩をすくめた。
「マッタク……イシマには完全に園さん取られたよ」
「石間って、老人とかニガテだと思ってた」
「イシマには園さんも『女』なんだね」
なんかむかつく……。
「イシマて、クラスで女の子に囲まれてない?」
「か、囲まれてるけど」
「ハーン、そんな感じするよ」
「………」
「シン、寂しいの?」
「ウン」
頷いて、ルイのニコニコしているのと目が合った。なに素直にウンとか言ってんの俺。
「やと素直になった」
「……う。」
これもルイのキスのせいだ。
「ルイのせいだ」
「え、悪くないよ」
ルイが金髪をかき上げる。
「悪い悪い悪い悪い悪い!」
「シ~ン~」
もうっ
「嫌いだっ!!!」
バッ、と、石間もばあちゃんも俺を振り返って見た。ルイが目をまんまるくしている。
俺は、なにがなんだかよくわからなくなってしまって、外に出たくて居間を飛び出そうとした。外は吹雪だ。
「シン」
ぐっと長い腕に捕らえられてルイに抱き締められた。この場から消えることはできなかったけど、俺の酷い顔が胸に隠れたことにホッとして……ジワジワと涙が目の奥から滲み出て来てしまった。
「ルイぃ」
「ノー・プロブレン、シン」
ご飯ができるまで、ルイはもう黙って、俺の頭を撫でていた。