ブローディア冬
ギャル不倫、と言われて、俺は固まった。
無駄に英語がうまいとカタカナが聞き取れないんだよなあ。
「ああ、ガールフレンド、か」
「シンにはいるの?」
なんで急にそんな事……。ばあちゃん手製のカバーでモコモコのソファに座ったルイを睨んだ。ゆったりとしていて、俺が睨んだところでお構いナシというような余裕。
「ルイはいんのかよ?」
「ウンウンそっか、いるんだね」
「えっ。……なんでそうなるんだ?」
「ンー? いないのかな?」
「………。」
「ほらね、いるんだね」
ガールフレンドなんて、カノジョなんて、高校二年になる今の今までいたためしがない。思い当たるのは、石間。
そういえば女子の中でなんとか喋れる相手から調理実習のサンドイッチを貰ったことがある。でもそれって女友だち未満。だし。
思い当たるのは、石間……。
男だけどつ、付き合っているんだ。もう半年近くも続いている。
そういえば、入学してすぐに石間が女の子と一週間で別れたって噂があったよなー……
俺はふるふると頭を振って気を取り直した。
「ルイ、アメリカ人のガールフレンドの基準て何?」
「基準ね。フーン、帰りに送っていってキスするかどうか、とか」
されたことがある。……マル。
「ん? アメリカ人てキスがあいさつじゃないの?」
「あいさつじゃな~いキスをするんだよネ、そういう子とは」
横目にルイはフフンと笑いながら俺を見た。なんだよ、年上のくせにそーいう勝ち誇った顔すんなよばか。
俺はルイに向けていた体を正面に変えた。
「シンはその子と寝たことあるの」
「ねッ?!」
思わず振り返ると、ルイの嬉しそうな意地悪な顔。
「エ、ッ、チ」
「うわ、ばか!」
ルイは耳元でささやいた。そういうこと、そういうこと言うなよ。
ルイは睫毛も金髪だ。ケラケラ笑うと長いそれが青い瞳にかぶさった。
「ウブだなシンは。トモダチとそういう話しないのか」
「そんな」
ルイはまた俺に顔を寄せた。
「イシマと、とか」
「いっ」
ぼんっと顔から火が出るかと思った。なんてこと言うんだよルイ。石間とそんな話しないよ、そりゃ三好とかはさ、下ネタ好きっぽいけど。
「石間はそんなこと話さないよ」
「ウッソ、イシマはキト、えろいと思う」
「どこがだよ」
「フフ、そうねー」
なんだよもう……。
「ルイ、どこがだよ!」
「シン」
ルイはムキになった俺を見てちょっと驚いた顔をした。空になったグラスを置いて、毛糸の靴下の上から足の甲をポリポリかく。
「シンとイシマって不思議だ」
「……そうかよ」
「シン、手貸して」
「え?」
なんとなく差し出した手に、ルイはキスをした。
ちゅっ、と音が出た。
ルイはキスするとき絶対音を出すんだ。恥ずかしい。
「なに……。ねえ、手の甲に何か付いてた?」
「付いてたよ」
ゆっくりと顔をあげたルイは口の端だけで笑って、俺の右手をでかい両手で包みこんだ。
「シンの大事な気持ち」
「なんだそれ」
「貰た」
「えー?」
ルイはウインクして、よくわからないままに二階へ行ってしまった。
俺の大事な気持ち。石間のことが好きって気持ち? ルイに、石間のこと分かったふうに言われたくない醜い気持ち? 今、石間に会いたいって気持ち?
確かに、俺は石間のことばっかりだ。
「勉強しなきゃ」
居間からすぐの客間に戻らなきゃ。でも、そこで今夜また石間とね、寝るんだ。
「きっと」
……俺のほうがえろいと思う……。