ブローディア冬
「石間」
客間。その窓の外。
「石間」
二階のホール。
「石間?」
玄関……ここにも石間がいない。
「シンはイシマのことばかりだね」
「あ、ルイ」
休日のルイがトイレから出てきたところだった。
ざっくりと編まれた白いセーターはばあちゃんがクリスマスにプレゼントしたお手製らしい。かわりにルイはばあちゃんにキスしたんだって。へんなカンケイだ。
「イシマは園さんと買い物にイタよ」
「なんだ買い物か」
誰も見当たらないからおかしいと思ったんだ。石間にしろばあちゃんにしろ、何か声くらいかけてくれたら良いのにさ。
「シンが熱心に勉強してるからソトしてたよ」
「そっか。ありがとう」
ルイと並んで廊下を進む。ルイは体が大きいから、並ぶって言っても俺が少しだけ先を行くんだけど。
冷蔵庫からコーラを出して、二人分用意した。
『シン、元気ですか?』
『……ボチボチデンナ』
ルイはたまにこうして、英語で話しかけてくることがある。具体的に英語の勉強をみてくれる時もあるけど、ちょっとした交流が脳を元気にさせるんだってルイは言う。
ルイ自身がそうだったのかな。前に会った時よりも日本語がうまくなっているのを感じるし。
『あなたは、イシマが好きですか?』
『はい、好きです』
『ルイのことは?』
『はい、ルイも好きです』
ストーブのある居間より寒いシンクの前で、クスクスと笑い合った。
背の高いルイが俺の頭を撫でて、そのまま頬まで手を下げてフニッとつまんだ。
「いふぁい」
なんだかおかしくなって笑うと、ルイはにっこりと笑って何かを英語で呟いた。
それは速くて、低過ぎる囁き声でよく分からなかったけど、俺を見るルイの青い目が優しかったから、俺も改めて柔らかく笑い返した。
「木野!」
「ア。イシマだ」
振りかえるとほっぺたと鼻を真っ赤にした石間が立っていた。洗面所の方では、ばあちゃんがなにやらごそごそやっているのが聞こえる。
いつもの様子に俺は急にホッとしてしまった。
「石間おかえり」
「ああ……ただいま」
「コーラ飲むか? いまコップを」
「それちょうだい」
石間はたった一歩でぐんと近付いて俺からコップをひったくった。ゴクゴクと飲み込んで、俺にコップを返して、どしどしと廊下に出ていってしまう。
もう離れてしまった。
「さわがしいやつだね」
「(間接キス)」
コーラを継ぎ足して、俺も飲んだ。