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しらとりごう
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novelistID. 21379
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ブローディア冬

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「石間」

 客間。その窓の外。

「石間」

 二階のホール。

「石間?」

 玄関……ここにも石間がいない。

「シンはイシマのことばかりだね」
「あ、ルイ」

 休日のルイがトイレから出てきたところだった。
 ざっくりと編まれた白いセーターはばあちゃんがクリスマスにプレゼントしたお手製らしい。かわりにルイはばあちゃんにキスしたんだって。へんなカンケイだ。

「イシマは園さんと買い物にイタよ」
「なんだ買い物か」

 誰も見当たらないからおかしいと思ったんだ。石間にしろばあちゃんにしろ、何か声くらいかけてくれたら良いのにさ。

「シンが熱心に勉強してるからソトしてたよ」
「そっか。ありがとう」

 ルイと並んで廊下を進む。ルイは体が大きいから、並ぶって言っても俺が少しだけ先を行くんだけど。
 冷蔵庫からコーラを出して、二人分用意した。

『シン、元気ですか?』
『……ボチボチデンナ』

 ルイはたまにこうして、英語で話しかけてくることがある。具体的に英語の勉強をみてくれる時もあるけど、ちょっとした交流が脳を元気にさせるんだってルイは言う。
 ルイ自身がそうだったのかな。前に会った時よりも日本語がうまくなっているのを感じるし。

『あなたは、イシマが好きですか?』
『はい、好きです』

『ルイのことは?』
『はい、ルイも好きです』

 ストーブのある居間より寒いシンクの前で、クスクスと笑い合った。
 背の高いルイが俺の頭を撫でて、そのまま頬まで手を下げてフニッとつまんだ。

「いふぁい」

 なんだかおかしくなって笑うと、ルイはにっこりと笑って何かを英語で呟いた。
 それは速くて、低過ぎる囁き声でよく分からなかったけど、俺を見るルイの青い目が優しかったから、俺も改めて柔らかく笑い返した。

「木野!」
「ア。イシマだ」

 振りかえるとほっぺたと鼻を真っ赤にした石間が立っていた。洗面所の方では、ばあちゃんがなにやらごそごそやっているのが聞こえる。
 いつもの様子に俺は急にホッとしてしまった。

「石間おかえり」
「ああ……ただいま」
「コーラ飲むか? いまコップを」
「それちょうだい」

 石間はたった一歩でぐんと近付いて俺からコップをひったくった。ゴクゴクと飲み込んで、俺にコップを返して、どしどしと廊下に出ていってしまう。
 もう離れてしまった。

「さわがしいやつだね」
「(間接キス)」

 コーラを継ぎ足して、俺も飲んだ。

作品名:ブローディア冬 作家名:しらとりごう