永遠のフィルター
あと五分も歩けば土谷の家に着く。僕らは、いつの間にか会話することをやめていた。車の音さえほとんどしない人気のない住宅街の中、ただただ響くのはふたり分の足音と、近隣の家の犬の吠え声ばかり。
元々土谷はそこまでおしゃべりなほうではない。けれど、家に近づくにつれて、やけに言葉が減っていっているのは気のせいだろうか。
僕も話が上手いほうではない。話しかけるきっかけもつかめない。どうしようかと迷っているうちに、あっという間にそう長くはない家路は終わる。
「それじゃ、またね」
土谷はそう言って、門をくぐり、あの鍵穴だらけのドアに手をかけた。
「うん、またな」
その声が、ちゃんと届いたかどうか、僕にはわからなかった。
その夜、それまであれだけ苦戦していたことが嘘のように、土谷から借りた知恵の輪のうち、単純なほうがあっさりと解けた。
そのまま、夏休みが終わるまで、僕が土谷に会うことはなかった。あれからずっと天気が悪くて僕は家にいることがほとんどだったし、土谷もまさかあの場所へは行っていなかっただろう。