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なつきすい
なつきすい
novelistID. 23066
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Another Tommorow

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 こんなに長くは寝るつもりはなかったけれど、頭はすっきりと冴えていた。人の動きがなくしんと冷え切った空気のせいもあるし、元々寝起きは割りと良いほうだと思う。ただ、眠りが深く一度眠ってしまうと十分に寝たと身体が判断するまで目が覚めないので、朝寝坊は日常茶飯事となってしまっている。目覚まし程度の外部からの刺激では脳に届いてすらいないのか、寝たまま止めることすらなくうるさく鳴り響く中平気で寝ていることもしばしばで、むしろその轟音は隣の部屋の大和や、終いには2階にいるはずの父の眠りまでもを妨げる。よって、どうしても絶対に遅刻できない用事があるときは、目覚ましに加えて大和に頼んで叩き起こしてもらうことにしている。普通の一限の講義ぐらいなら、目覚ましだけで済ませてしまうこともあるが。どうせ自分が起きなくても朝食は温めて、後はせいぜい薬味を好みに合わせて入れれば食べられる状態にまでしてある。飛鳥が完全に寝過ごした場合は、用意しておいたおかずを適当に詰めて大和は家を出ているようだ。
 広く、日中人の気配のなかった居間は、飛鳥の部屋よりもより冷え切っていた。大きく呼吸をすると、肺の奥まで冷たい空気が満たされる。エアコンを入れて、エプロンを被ると、飛鳥は冷蔵庫の中身と相談を始めた。
 野菜は十分にある。退院したときに帰り際に大和と父に持ってもらって長持ちしそうなものをまとめて買っておいた。じゃがいも、人参、玉葱、かぼちゃなどが野菜室の中にたっぷりと入っている。大蒜と生姜は元々常備してあり、切らす前に買い足している。問題は肉類だ。冷凍庫の中に鶏肉はまだある。お弁当にもチキンカレーと唐揚げを持たせてしまった弟はともかく、昼食も取らずに寝続けてしまった自分と、昼は外食する父なら、夕食も鶏でも構わないのではないか。本当は、一人分も二人分も、もしくは自分の分も入れて三人分でも弁当を作る手間はあまり変わらないのだけれど、恐らく父は弁当よりも外食がいいのだろうなと思って作っていない。別に飛鳥の料理に不満はないだろうし、朝食や夕食は美味しそうに食べてくれるけれど、父の好物はラーメンなのだ。さすがにこういう秘伝の出汁や材料がものをいう料理は、外で食べたほうが絶対に美味しい。大鍋で大量の具材を煮込んで出るような味は、せいぜい3人分しか作らない家庭では出しようがないのだ。だから、大量に煮込むコンビニのおでんは意外と美味しいのではないかと飛鳥は考えている。仕事の合間に好きなラーメンを食べたい気分のときもあるだろうし、同僚との付き合いもあるだろう。
 大和の通う高校には、学食がない。一応売店はあるけれど、扱っているのはせいぜいおにぎりと菓子パンぐらいのもので、それもタイミングを逃すと朝練を終えた運動部の連中にあっという間に食い尽くされてしまう。勿論昼休みに学校を抜け出すのは禁止なので、弁当持参が基本だ。中学も弁当だったので、大和が中学に上がってから自分が高校を卒業するまでは、いつも二人分の弁当を作っていた。当時同級生に母子家庭で夜間働いて朝は寝ている母に代わって弟妹と自分の弁当を作っている女の子がいたのだけれど、彼女曰く、2つ違いの弟は高校に上がったときに「姉貴の手作り弁当なんて恥ずかしくて持っていけない」と言って、コンビニ弁当に切り替えてしまったそうだ。今まで姉にかけた苦労をなんだと思っているのかと同じくひとり親家庭で料理を担当していた飛鳥は思ったが、反抗期で、照れくさい時期なのだろうと言って怒るでもなく彼女は笑っていた。そんなものかと思い、大和が高校に入学する時にそれとなく聞いてみたけれど、大和は何の疑問もなく高校に入っても飛鳥が弁当を作ってくれるものと思っていたようで、反抗することも照れることもなく、今でも毎日飛鳥の作った弁当を持って登校しているし、特に美味しかったときは感想もくれる。4年も離れていると小さな頃は力の差が歴然としていてあまり喧嘩にならないし、親も上の子の役割を自然と期待するし、母の身体が弱かったこともあって、飛鳥は大和の面倒をよく見た。そのせいか、体力も体格も抜かれてしまった今となっても、弟が自分にぶつかってくるようなことは滅多になかった。ただ、以前のように懐いているという感じではあまりなくなってきたし、飛鳥が馬鹿なことを仕出かしたときは容赦なく冷たい視線を向けてくるようにはなったけれども。
 自分の分の弁当は、気が向けば作る。手間でもなんでもないのだけれど、友達に弁当派がいないのだ。学食で食べるなら弁当を持ち込んでもいいのだけれど、大学近郊にたくさんある安い中華屋に行くことも多い。大学に多数在籍している中国人留学生にとって格好のバイト先となっているそういう店では、高級感はないしふかひれだとかなまこだとか言ったようなメニューも少ないが、餃子や炒飯のようなものに関しては値段の割りに相当本格的な味が楽しめる。勿論そんな店に食べ物を持ち込むわけには行かない。
 大和も学部は決めていないようではあったが、飛鳥と同じく梅山立城大学を志望している。そうなれば現在の飛鳥とほぼ同じ食糧事情になるだろう。大和の弁当を作るのも、受験までのあと一年ちょっとの間だ。そう思うと、少しだけ寂しさが過った。
 鶏肉を一口サイズより少し大きめに切り、軽く塩をしてフライパンの上で転がした。ごま油にラー油を少し混ぜて辛味をつける。最後に細く切った長ネギを適当に放り込んで少しだけ砂糖と豆板醤をかけた。適当もいいところのレシピだけれど、ご飯は結構進む。野菜炒めも作ろうかと思ったが、炒め物に炒め物をあわせるというのもなんだかと思い、人参とかぼちゃとじゃがいもと玉葱を軽く蒸して、上にチーズとバターをかけてオーブンで焼いた。ご飯は、父が帰ってくる頃に炊き上がるようにセットしてある。ちょっと中華風にした鶏肉炒めとグラタン風の野菜のチーズ焼きのどちらにあわせた汁ものを作るか少し迷って、結局あまり時間もなかったので簡単に中華風卵スープを作った。
「なぁ、飛鳥」
「何?」
 夕食の後片付けをしていると、ふと、父が言った。
「23日、暇か。墓参りに行かないか」
「いいけど、こんな時期に?」
 母が死んだのは夏の暑い日で、祖母が亡くなったのは春先のことだった。母と祖母が眠る川名の墓は梅山立城市内の山のほうにあり、梅山駅からはバスが出ている。行こうと思えば車がなくても簡単にいける場所だし、毎日梅山立城まで通っている飛鳥と大和にとっては、学校帰りに寄ることもできるぐらいのところだった。それでも、最後に行ったのはお盆のころだったと思う。
「じいちゃんが、やっぱり引越し迷ってるらしくて、ばあちゃんと清海に相談したいんだって。折角だからみんなで行こうと思って。大和も今日終わったら暇になるんだろ」
「ああ、そうだって聞いてる」
「じゃあ決まりな。空けておいてくれ」
作品名:Another Tommorow 作家名:なつきすい