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なつきすい
なつきすい
novelistID. 23066
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Another Tommorow

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 まず先週の月曜日。12月12日。医療事故を防いだ日。線路への飛び込み自殺を予知した日でもあるが、こちらは少なくとも事故は発生してしまったようだった。飛び込んだ人がどうなったのかは、報道されていない。
 17日の土曜日。大和に例の予知について話し、そして引っ叩かれた。
 思い返すに情けない、少なくともここ数年では一番みっともない姿を晒したのがこの数日だったと飛鳥は思う。例の予知が起きてからここまで、何をしても変わらなかったことが堪えていたのだろう。それは今だって変わらないけれど。
 そして18日の日曜日。買い物に行く途中に交通事故に遭って、梅山立城大学医学部付属病院の救命救急センターに搬送された。事故の規模のわりに怪我は大したことはなかったが、それでも意識が戻るまでに2時間ほどかかった。まだ救命では実習がないため、まともに足を踏み入れたのは今回が初めてだ。短時間なら、母が倒れたりして運ばれたときに付き添いで入ったこともあったけれど、それだってもう直近でも7年以上は前の話だ。看護師を目指すことを決めたときからずっと憧れていた部署に初めてちゃんと行くのがこんな形になるとは思ってもみなかった。折角だから見学しようと思うぐらいの余裕ができた時にはもう整形外科病棟に移されていたので、あまりじっくり見ることができなかったのが残念だ。
 大和が見舞いにきてくれたのは、翌日の19日月曜日。
 弟とじっくり腹を割って話したのは、どれぐらいぶりだろう。もしかしたら初めてかもしれないと思ったところで、一回だけあったことを思い出した。母が死んだ直後に、予知について詳しく聞かれたとき以来だ。そもそも、そんな風に話しあう必要なんてなかった。それ以降家族が大きなトラブルに巻き込まれるようなことはほとんどなかった。祖母が亡くなったのだって、事故や急病ではなく、長年患ってきた持病を悪化させてのことだったし、半年ほどの入院の間に誰もが覚悟はできていた。
 だから、知らなかった。弟がずっと、何をどう思っていたかなんて。話してくれなければ知りえるはずもない。他人が何をどう感じ、考えているのかを知ることはできないのだから。
 けれど、弟のその言葉は、確かに飛鳥を救った。救ったというと少し違うかもしれない。ともかく、飛鳥は立ち直った。大和の言葉は、自分の弱気に対しての喝に感じられた。大和にとっての飛鳥と、今の現状との乖離があまりにも情けなかったのもあるし、それに、ある出来事の意味が人によって違うという、ごく当たり前のことすら今更思い知らされた。
 何も出来ないなんてことは、ないのかもしれない。まだ諦めたくない。そう思った。事故に遭って、未来のこととしてではなく現在のこととして死に向かい合わされそうになったことも効いていたのだろう。死にたくない。心の底からそう感じた。
 退院したのが昨日で日付は二十日。そして今日は21日の水曜日。タイムリミットまで、あと十日あるかないか。しかも予知の時間が定まらない以上、いつそれは起きてもおかしくはない。
 そこまで考えたところで、飛鳥はふうと息を吐いた。
 客観的に見ると、状況はなにひとつ変わっていない。予知は変わっていない。或いは、以前のように頻繁に予知をしていれば避けられたかもしれない交通事故で二日も入院する羽目になってしまった。肋骨も折れたし、今も全身がずくずくと痛い。
 けれど、ただ事故で入院したという事実だけを知っていて、車の運転を避けていたら、飛鳥に会うことなくあの子どもが暴走車に撥ねられていたのだろう。それに、あの入院がなければ、大和とあんなふうに話すことはできなかった気もする。このまま、諦めていたかもしれない。
 多少未来が先にわかったところで、結局その出来事が将来にどう影響するのかなんてわからない。それどころか、ある出来事が自分以外の誰かにとってどんな意味を持つのかすら、知ることはできない。結局、その程度の力だ。未来の自分が知るはずの情報を、早く得ることができるだけ。
 だから、考えなくては。自分が得られる範囲の情報をヒントに。それでも、自分の思考には限界がある。
 だから、我慢しないで話そう。自分以外の認識と思考を持つ人に。
 自分ひとりでなんとかしようだなんて、思い上がりもいいところだ。単一性が脆弱さに繋がるのは、遺伝子や種についてだけのことじゃないなとなんとなく思った。人類65億人の誰もが同じ思考を持っていたとするならば、それがどれだけ優秀であったとしても、ある出来事に対して限られた対処法しかもてなくなる。三人寄れば文殊の知恵という言葉もあるが、誰の出した解がある問題に対してより有効であるかなどはともかくとして、自分以外の人間は、自分にはない思考を持っている。それが直接助けになることもあれば、それを引き金に自分の中に新しい発想が生まれることもある。
「ここまでかな」
 自分以外誰もいない部屋の中で、誰に聞かせるでもなく呟く。今の飛鳥に考えられるのは、ここまで。
 帰って来たら、大和と話そう。予知も含めたすべてを打ち明けることはできないけれど、学校に行けば友達もいる。子供の頃から知っている先生たちもいる。
「なんとかなる、たぶん」
 自分に言い聞かせて、飛鳥は目を閉じた。やはりいつもよりずっと身体が重くてだるかった。夕飯を作り始める6時半をタイムリミットに、自然に目が覚めるまで好きなだけ眠ることにした。
 目を閉じると、あっという間に眠気に飲み込まれる。意識が遠のくけれど、あの虚無に引きずりこまれるような感覚とは違って、ただただ、心地よかった。
 
 
 
 結局、目を覚ましたのは目覚ましの鳴る直前、6時も20分を過ぎたところだった。12月の日は昇るのも遅いのにあっという間に落ち、空はもう暗い。時計が24時間表記じゃなければ、朝の6時なのか夕方の6時なのかすらわからないところだ。
 身体に負担をかけないようにゆっくりと伸びをした。全身の痛みは少し和らいだ気もするけれど、やはり胸にずきりとした痛みが走る。ただ明らかに痛んでいる箇所が肋骨なので、さしたる不安感はない。原因もそれが命にかかわるものでないことも知っていれば、不快ではあるけれど怖くはなかった。
作品名:Another Tommorow 作家名:なつきすい