カトレアクラブ
朝から二人でぎゃあぎゃあ騒いでいると、あやめの隣――一番左の自販機でコーラを買っていた生徒がくすくすと笑っていた。
二人は声を止め、その生徒へ顔を向ける。金に近い髪色が耳元でくるくるとカールがかかっている、真っ白な素肌の生徒は、目を細めて朗らかな笑顔を浮かべていた。
「二人は――一年生?」
二人と目が合うと、表情を戻し、蒼い瞳であやめの顔を見た。髪色だけでは分からなかったが、どうやら外国人か、ハーフの生徒のようだった。
「あ、はい。そうです。……先輩ですか?」
「そうヨ〜。二年生。あなたたちより一個上ね」
「す、すみませんでした! 大騒ぎしちゃってて!」
あやめはあたふたしながら先輩に向かって頭をぺこりと下げる。恵理香も吊られて頭を下げた。濡れた髪の毛からしずくが頬を伝って垂れた。
「いいの、いいの〜。ただね――その……」
「……?」
二人は頭を上げ、きょとんとした顔で先輩の顔を覗く。彼女は困ったような、何か言いたげな、複雑な表情をしていた。
「ううん。何でもないの。じゃ、またネ〜! シィユ〜」
彼女は振り返りながら二人に手を振り、二階へと続く階段の方へ向かっていった。
「綺麗な先輩……日本人じゃないよね。帰国子女とか?」
ぼおっと立ち止まったあやめの横に恵理香は並び、先輩のいなくなった空間に視線を合わせる。
「日本語で普通に話してたから、ハーフじゃない?」
「そうなのかな? ……あ、せめて名前だけでも聞いておけばよかった〜!」
あやめは悔しそうに胸に手を当て、身体を左右に揺らした。
「ハーフの生徒なんてそんなにいないだろうから、まだすぐ見つかるでしょ。その時に聞けばいいじゃない」
恵理香はそう言って元来た廊下へ歩き始めた。
「ねぇ――えりちゃん」
恵理香から三歩ほど遅れて後についてくるあやめが呼んだ。
「パンツ、落としたよ」
恵理香は勢いよく振り向いた。あやめの胸元には、薄いピンクの花柄の刺繍が入った下着が、両手で広げられていた。
本当に今日は、朝からついてない――、と恵理香は思いながら、あやめの手から自分の下着を引き剥がすように乱暴に受け取った。