カトレアクラブ
6
「……おやすみ」
「おやすみなさい。今日はいろいろと……ありがとう」
どういたしまして、という意味で手のひらをあやめに向けて軽く上げ、恵理香はホットミルクを片手に持ちながら自分の寝室に入っていった。あやめも眠そうに瞼を擦りながらカードキーを扉に当てた。
ベッドの端に一日の疲れを預けるように恵理香は腰を下ろし、ホットミルクを口に入れた。少しぬるかったが、寝る前に体を温めるために飲むためのものだから、舌が痺れるくらい熱いよりはマシだった。
――もしも今日、二人で行動を共にしていたのがあやめではなく、美咲だったとしたら、また二人で自慰行為をしていたかもしれない。
恵理香は半分ほど飲み終えたところでマグカップを出窓に置き、布団にくるまった。今朝はあんなに汗をかいていたのに、夜になれば毛布が心細くなるくらいに体が冷えた。
――私にとって、あやめとはどういう存在なのだろう……。
ただの友達?
赤の他人?
同居人?
親友?
それとも……。
布団に顔を押しつけていると、目頭が熱くなり、何故だか涙が溢れた。布団に染みて生暖かい液体が瞼に触れた。
恵理香は布団を顔から離し、体を起こして出窓から夜空を覗いた。電気の消えた部屋と変わらぬ色に染まった夜空は、保護色の雲が模様のように散りばめられ、まるで今の恵理香の心の中を映しているようだった。窓のサッシから冷気が僅かに流れてきた。
肌寒くなってきたので、再び布団にくるまった。体の内側から暖まった頃には、恵理香は深い眠りについていた。