カトレアクラブ
7
メール着信音にしている第九の「歓喜の歌」がニューイヤーを迎えたかのように壮大に鳴り響き、恵理香はベッドから体が跳ね上げられたかのようにびっくりして起きた。
「なんだよもう……。着信音なんて設定してないのに……尚子か望の仕業か?」
寝ぼけて独り言をぶつぶつ唱えながら、恵理香は携帯電話を開く。時刻は七時ちょうどを迎えていた。
見覚えのない差出人のアドレスに嫌悪感を抱きながら、その差出人からのメールを開く。
そのメールの本文を読んだ途端、恵理香は一瞬にして覚醒した。
着信音で起こされた時以上に、驚愕の内容だった。
携帯を片手に硬直していると、ぴったりと閉まった扉から、どたどたと下品な足音が聞こえた。
「え、えええええりちゃん! 大変! あたし、あたし……!」
まさかと思い、恵理香は急いで立ちあがって扉にカードキーを当てる。右足の裾が膝までめくれ上がっていたが、そんなことを気にしている場合ではない。
扉が開くと、恵理香の前には鏡に映ったかのように、左手に携帯電話を持って呆然とした表情であやめが立っていた。
「も、もしかして――えりちゃんも……?」
恵理香は黙って頷く。背中に冷や汗のようなものが一筋流れた。
「いたずら、とか……?」
「それはないはず。この学校にこんなくだらないことする人なんていないだろうし。そもそもバレたら即刻退学になっちゃうし」
あやめは携帯を握りしめた手を胸に当てたまま言った。
混乱するのも当たり前だろう。
二人に届けられたメールには、こう綴られていた。
『カトレアクラブより。勝手ながら、あなたを我がカトレアクラブの新入部員の一人に選抜させて頂きました』
恵理香とあやめは、同時に数回まばたきをした。