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カトレアクラブ

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「あぁ〜! もうみんな食べちゃってるぅ〜! あたしのことぐらい、待っててくれればいいのに〜!」
あやめがお皿にパスタを乱雑に載せてやってきた。コップに注いだお茶がトレーの上にこぼれていた。
「普段、誰よりも早く食べ始め、誰よりも早く食べ終わるのは誰だっかかな〜?」
 もぉ、あたしをそんな早食い女王みたいな言い方しないで、とあやめは言いながら尚子の隣に腰を下ろした。
 それからは、授業のこと等の雑談をしながら食べていた。望が夕飯に選んだのはサラダとスープだけだった。どうやら現在ダイエット中らしい。尚子はカツ丼をガツガツという効果音が似合いそうなくらい男らしく食べていた。遅れてきたにも関わらず、一番最初に食べ終わったのはあやめだった。
 食べ終わると同時に四人は席を立ち、すぐに食堂の外へと出て行った。恵理香が人の多いところが苦手な体質だということを熟知しているからの配慮だろう。
「じゃあ、あたしと尚子はシャワーを浴びてくるわぁ」
「うん。また明日ね」
「じゃあね〜。絶品ソフトクリームおいしかったよ〜」
「今度はあたしに奢ってくれよぉ!」
 四人はシャワールームの扉の前で別れた。手を振りながら恵理香とあやめはエレベーターに向かい、着替え等を持って再び一階に下りて大浴場に入った。
 女湯しかない大浴場の扉の横には小さな電光掲示板が設置されてあり、「入れます」と書いてあった。営業時間外やロッカーが全て埋まってしまっている時には「入れません」という表示に変わる。
 食事を済ましたのが早かったのか、まだ大浴場はそこまで混んでいなかった。五十ほどあるロッカーの鍵にはほとんどカードキーが刺さっていなかった。
 恵理香とあやめはほぼ同時にロッカーに自分のカードキーを挿し、扉を開けて、持ってきたパジャマと新しい下着を奥に入れた。制服を脱いで丁寧に畳み、タオルを体に巻いた後に内側から下着を取り、ロッカーに入れて扉をバタンと閉めた。
「えりちゃんって、体洗うとき以外絶対タオル外さないよね」
「やだ。そんなこといちいちチェックしてたの?」
 恵理香は顔を伏せながら浴室へと入っていった。あやめは三つ編みをほどいてタオルを胸元で押さえながらその後についていった。
 恵理香は近くの洗面台に腰を下ろし、自分の顔を鏡と睨めっこするように確かめながら、シャワーを出して温度を確認した。すると、隣にあやめが座ってきた。
「やっぱり尚子と望はいつもシャワーなのね」
「その方が早く済むからじゃない? 望なんかは化粧落としたりもして大変そうだし」
 ちょうどいい温度になったシャワーを壁に固定して、恵理香は流れる滝で修行を始めるように頭を濡らし始めた。
「本当にそうかしら。やっぱり部屋が違うっていうのが関係あるんじゃないかしら」
「考えすぎだって。私、望に聞いたけど、尚子は私達と仲良くなる前――入学当初から個室だったらしいよ」
 シャワーを一旦止め、鏡の前に置いてあるシャンプーのボトルを手探りで取り、手に液体を垂らした。ちょっと多めに出してしまったのか、頭の上で泡立てると泡が頬を伝って流れ落ちてきた。
「じゃあ尚子に何か理由があるんだ……。いじめとか受けてたのかなぁ……」
「でもいじめを受けるとしたら普通は女の子からでしょ? そしたら女の子しかいないここには入ってこないんじゃない?」
「どうなんだろ……。うちの高校ってさ、普通の高校とかと違って、集団行動があんまりないでしょ。全寮制の通信高校みたいな感じというのかな。それに学費も安いから普通の生徒も普通にいるけど、中には一般的な高校に入れない子とかも入ってくる、て聞いたよ」
 なるほど、と恵理香は口には出さずに思った。確かにそれを考えると、恵理香も一般的な高校に入っていたら、上手く馴染めなかったかもしれない。小学校にも行ったことがないし、中学校から今のような「映像を見てレポートを解く」という授業を受けていたので、狭い教室の中で三十人近い生徒と共に一人の教師から授業を教わるなんてこと、想像がつかなかった。
「そうなると――どうして望とは仲良くなれたのかしら。あたし達と仲良くなったのは望と一緒にいたからって分かるけど……」
 恵理香はバロック時代の作曲家の頭に盛られたカツラのように泡だらけになった頭を、シャワーで一気に流した。
「望も結構不思議な人だからねぇ。あたし達に最初話しかけてきた時も確か、変わったこと言ってたよね」
「……そうだっけ?」
 恵理香は泡と共にシャワーで流れてしまったんじゃないかと思えるくらい、思い出せなかった。
「変わってる子ほど、過去に辛い思いをしてたり、いろいろワケがあったりするのかもね」
 そうだね、と恵理香は空返事をしながら、自分も人のことは言えないな、と思った。

作品名:カトレアクラブ 作家名:みこと