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カトレアクラブ

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「迫ったとか言わないでよ! 私が襲ったみたいに聞こえるじゃない!」
 声が次第に大きくなっていくあやめに対抗して、恵理香も胸の奥から怒りがこみあげてきた。美咲とのことを馬鹿にされているような気がしたのだ。
「……いいよね。好きな人と同じ部屋なら、そういうことも学校で出来て。どうせあたしなんか美咲ちゃんみたいな優等生じゃないよ。顔も美咲ちゃんの方がかわいいよ。あたしなんかと一緒の部屋で、楽しくないでしょう?」
「なんでそういうこと言うの? あやめといて楽しいからこうして同じ部屋で二人で話しているんでしょう?」
「どうせあたしは美咲ちゃんの替わりでしょ……。恵理香ちゃんは美咲ちゃんがいれば、あたしなんていらないんだ」
 このままでは収集が着かなくなりそうなので、恵理香は一呼吸置いてからまとめて言った。
「――私はただ、美咲が志望校に受かって欲しいと思ってるだけで、優等生だとかかわいいとかは何も関係ないの。受験に受かって離ればなれになったらそれでおしまい。そういう関係でしかないの。きっと美咲も同じように考えていると思うわ」
あやめはたじろいだ。効果はあったと思い、恵理香は続けた。
「私にとっては、美咲もあやめも大事な友達なの。だから……受験が終わったら、三人で一緒におしゃべりしたりしようよ」
 恵理香はおしりを上げてあやめに近寄り、彼女の左手を両手でぎゅっと握った。あやめの手はじっとりと汗をかいていたが、不快には感じなかった。
「……あたしは美咲ちゃんなんか――嫌い」
 俯いて黙っていたあやめは、ぼそりとつぶやくように言った。
「美咲ちゃんなんて、受験に落ちて鹿児島に帰っちゃえばいいんだ!」
 急に顔を上げ、あやめは恵理香に向かって怒鳴りつけるように言った。廊下にまで響きそうな音量だった。
 恵理香はその発言に堪忍袋の緒が切れて、握っていた手を離し、胸ぐらを掴んで自分の方へ近づけた。引っ張った勢いで、パジャマの一番上のボタンが外れた。涙目になりながらもあやめの表情は怒ったままだ。
 恵理香は掴んでいないほうの手であやめの頬を思い切り叩いた。乾いた音が部屋に響いた。叩かれた頬を恵理香に向けながら、あやめはゆっくりと自分の左手で赤くなった頬をさすった。
 この一撃で何とか理性を取り戻すだろうと恵理香が思ったのもつかの間――。あやめは顔を正面に戻し、凶悪な表情で恵理香の頬を叩き返した。またもや叩たかれた音が夜の部屋に響いた。あやめは手を休めることなく恵理香の体を押し倒し、伸ばした腕で肩を押さえつけたまま、布団に垂れた髪の毛を引っ張り上げた。皮膚が剥がれそうな痛みが頭全体に広がった。
「先に手を出してきたのは、恵理香ちゃんだからね!」
 下っ腹のあたりにのし掛かられているのでは、勝ち目がない。恵理香は空いている手であやめの体を固定し、勢いをつけて体を横に倒した。反動であやめは掴んでいた髪の毛を離すと同時に床に転がった。受け身をとるようにすぐに起き上がろうとしたあやめよりも早く、恵理香はベッドから立ちあがり、彼女の左頬を右手で殴った。鈍い打撃音が鳴り、うめき声と共にあやめは扉側の壁にもたれるように倒れた。二人の荒い息だけが耳に入ってきた。
「私は……美咲の悪口を聞くために、あやめを部屋に呼んだんじゃない」
「……あたしだって、恵理香ちゃんに殴られるくらいなら自分の部屋で寝てるわよ」
 体制を変えずに恵理香のことを睨み付けながら、あやめは言った。恵理香は反論しないまま、部屋から一旦抜けだそうと扉に向かった。
「もういい。明日、部屋を変えます」
 言い終わると同時にあやめは項垂れた。恵理香は無言のまま、扉を開けて寝室から出て行った。中学校舎には部屋の中にトイレがないため、部屋からいったん出て用を足して寝室に戻ってくると、既にあやめの姿はなくなっていた。
 次の日の朝、寮長が部屋に来て、あやめが早朝すぐに部屋を変えたことを告げた。向かいにあるあやめの寝室は開け放たれ、中からは気配を感じられなくなっていた。扉を開けて中を覗いたが、もちろんあやめの姿はなかった。整えられた布団と共にあるのは、標準サイズの枕だった。

作品名:カトレアクラブ 作家名:みこと