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カトレアクラブ

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 中学三年の秋――。恵理香があやめと同じ部屋に移ってちょうど十日目の夜。
ベッドの上に横になった恵理香は、なかなか寝付けないためすぐに眠くなる英単語帳を仰向けになりながら見ていた。
 二三ページ読んだあたりで、扉が二回軽くノックされた。
「恵理香ちゃん……起きてる?」
 扉の外からあやめの弱々しい声が聞こえてきた。恵理香は答えるのが面倒だったのでベッドから起き上がり、扉の鍵を開けた音(中学校舎はカードキーではなく、一般的なロック式の鍵となっている)で、寝ていないことを知らせた。
 扉はじれったいぐらいゆっくりと開いていき、俯いて大きな枕を抱えたあやめが立っていた。
「ごめんなさい。こんな夜遅くに……」
 恵理香は後ろを向いてベッドの横に置いてある目覚まし時計を見る。黄緑に照っているデジタルの時計には、十一時十四分と表示されていた。
「私も眠れなかったからいいけど――どうしたの?」
 彼女が持っているものを見れば分かることだったが、念のため聞いた。
「眠れないの……。よかったら、恵理香ちゃんと一緒に寝ていい?」
 恵理香はふと、美咲とのやりとりを思い出した。しかしあやめはそういう行為をしたいがために恵理香の部屋に来たのではない。単純に一人じゃ眠れないから来たようだった。
「いいけど――私、寝相あまり良くないわよ?」
「大丈夫。それより、あたしの方が寝息うるさいかも……」
「あぁ、それだったら私、眠ったら耳も塞がっちゃうタイプだから平気」
 そっか。なら良かったと、あやめはほっと息をつき、顔を上げた。普段の三つ編みは解かれ、長い後ろ髪が両肩に掛かっている。頬には涙の伝った後があった。
「えっと……まぁ、どうぞ、布団の上に」
恵理香は扉の前から体をずらして布団の上へと案内した。
「し、失礼します……」
ぺこぺこと頭を下げながら部屋に入ってくるあやめを見ながら、相部屋になってからそれなりに経っている上に、初対面の時からすぐに打ち解けたのに、あやめのこの遠慮がちな仕草はなんだろうと疑問に思った。恵理香は扉を閉めて鍵を掛け、掛け布団を足下の方に畳んだ。
「枕……大きいね」
 あやめの身長の半分くらいあるピンクの枕は、どう考えても恵理香の枕の隣に並べられない。
「あ、よければ、この枕を二人で使わない?」
 いくら大きいとは言え、どれだけ二人の顔が近くなるんだろうと、恵理香は困ったような恥ずかしいような、複雑な気持ちになった。
「あ、嫌ならいいの! あたし、枕使わなくても寝れるから……」
 わざわざ自分の枕を持ってきたのだから、それはきっと嘘だろう。眠れないから恵理香の部屋に来たのに、枕が無い所為で眠れないのでは意味がないので、恵理香はとりあえず承諾した。
「いいよ、もう横になっちゃって。布団掛けてあげるから」
「あ、じゃあ……えっと、そうします」
 やけに律儀なあやめを見て、付き合いの長さで態度というものは大きく変わるんだなと、痛感した。
 スリッパを脱いで布団に横になったあやめは、手術を待つ患者のようにぴしっと背筋腕足を真っ直ぐに伸ばして仰向けになった。思わず恵理香は掛け布団を広げたまま笑い出してしまった。
「え、え、なんか、おかしなことした?」
 戸惑うあやめにすぐ本当のことを伝えたかったが、呼吸が上手く出来なくなるほど笑っている状態では不可能だった。
「ううん、そうじゃなくて。か、格好がさ、真っ直ぐだったからさっ」
 起き上がってきょろきょろと自分の体をチェックするあやめに、やっと収まってきた恵理香は一言言うたびに大きく呼吸しながら答えた。あやめはそれを聞いた途端、暗い部屋の中でも分かるくらい顔を真っ赤にしたが、すぐにくすくすと笑い始め、それに釣られて恵理香も再び笑い出した。二人は涙が出るほど大笑いをした。
 もちろんあやめのことが可笑しくて笑っていたのだが、あやめが普段の調子を取り戻したことに安心して、喜びの意味も含めて恵理香は笑ってもいた。
 笑うだけ笑った二人は、笑い終わった頃には自然と布団に横になっていた。その後も恵理香はあやめと向き合ったまま、くだらない話をして二人で笑い合っていた。話題が尽きて目をつむると、いつの間にか眠りについていた。あやめの枕はすごくふっくらとしていて気持ちよく眠れた。
 朝になって、最初に起きたのは恵理香の方だった。目を開けて、胸や肘のあたりに違和感を感じて顔を横に向けると、あやめが抱きつくように恵理香の体にくっついていて、腕が恵理香のお腹の上に乗っていた。肘に感じた違和感はあやめの胸だった。
 起こさないようにそっと腕をどかしてゆっくりと体を起こし、恵理香はあくびをした。昨晩はあんなにおもしろ可笑しく感じた話も、今思うと何故あんなに笑っていたのだろうと恵理香は腕を組みながら考えた。
 美咲とはあんなに笑いあったことなど一度もなかった。冗談を言うことはお互いあったが、それでもくすりと少し笑うくらいですぐに収まったし、一緒に布団に入った時は笑いあっていたとは言えない。
 あやめもまた、美咲と同じような関係になるのだろうか――。恵理香は思考を止め、顔を洗いに部屋を出た。

 それからあやめは、毎晩恵理香の部屋に一緒に寝にやって来た。恵理香は最初の日の夜が楽しかったから、喜んで歓迎した。二日目以降は大笑いするようなことはなかったが、あやめの小学校時代の話は、恵理香にとっては新鮮ですごく興味深かった。
 二週間目の夜、あやめはいつもの通り、大きな枕を抱えて恵理香の部屋に来た。すっかり慣れたあやめは自分の部屋にいるかのように恵理香が何も言わなくてもすぐにベッドに座ってその日あったことを話し出した。別に慣れ親しんできたって証拠だろうし、恵理香はあやめのそのような態度には特に気にしなかった。
「ねぇ……? 美咲ちゃんもさ、今のあたしみたいに、夜に恵理香ちゃんの部屋に来たりしたこと、あった?」
 あやめは急に話題を変えて聞いてきた。美咲が眠れない等と言った理由で部屋に来たことは、恵理香の記憶にはなかった。その代わり、美咲に自慰の仕方を教わったこと、何度か二人で一緒におこなったことはあったと答えた。部屋が一緒になってある程度経ったし、もうこのような話題をしても平気なぐらい、あやめとは仲良くなれたと思ったからだ。
 しかし――。
「それってどういうこと……? 美咲ちゃんが、恵理香ちゃんの裸――とか、見たってこと……?」
 あやめは恐怖を感じているような表情になり、右手を胸に当てた。
「まぁ……見たと言えば、見たというのかな」
恵理香は首を捻りながら曖昧に答えた。
「どうして! なんで恵理香ちゃんが美咲ちゃんとそんなことしちゃうの?」
 あやめは突然表情を変え、眉間に皺を寄せ、きつい表情にして怒鳴るように恵理香に問いただした。
「どうしてって……、別に、私も最初は美咲としたくてしたわけじゃないし――」
「じゃあ二回目以降はどうなのよ! 美咲ちゃんから誘ってきたの? それとも恵理香ちゃんがしようって言い寄ったの?」
「言い寄ったって、そんな言い方なくない?」
「やっぱりそうなんだ。否定しないってことは、恵理香ちゃんから迫っていったんだ!」
作品名:カトレアクラブ 作家名:みこと