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神無月の饗宴

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 私は双子の弟の健とともに、車で出雲に向かっていた。

 私たちは奈良の大神(おおみわ)神社をお預かりする家に生まれ、10月8日が20回目の誕生日だった。神社のしきたりでは、20歳になる月には出雲に参ることになっているらしい。そこでいろいろな儀式を受けるのだとか。
 大神神社は、標高467メートルの円錐状をした三輪山を御神体として、大物主神をお祭りしている。大物主神は稲作豊穣、疫病除けそして酒造りの神であり、本体は蛇。水神とも雷神ともいわれていて、時には崇り神ともなる。出雲の大国主神の国造りを手伝ったとか、大国主神そのものだとか、いわれている。


 家を朝の9時に出発して、健と交替しながら車を転がしてきた。
 米子自動車道から9号線に入り、山陰自動車道の仏経山トンネルに入った。
 オレンジの光に包まれた長いトンネルを抜けると、非常に濃い霧がかかっていた。少しスピードを落としてそのまま道なりに走っていたのだが、いつのまにか地道に入っていた。
 道に迷うはずはないのだが、心細くなって助手席で眠っている健を起こした。
「たける、起きて」
「ん? どうした?」
「道に迷ったかも・・・」
「道に迷ったァ? そんなはずないやろ、カーナビ付いてるし、ずーっと一本道で行けるはずやでェ・・それにしてもえらい霧やなァ」
「あれェ? 行き止まりやろか」

 車を止めて外に出た。下は土。右手には山がせまり、左手に大きな川がゆったりと流れている。健は携帯電話をポケットから取り出してプッシュした。
「チェッ、つながらん、圏外や」
「このままバックで戻らんとしゃあないな、たけるのほうが運転うまいさかい、やって」
「なんややまと、えらそうに運転は任せとけ、ゆうとって」
「そやかて見通し悪いし、道幅も狭いんやもん、な、交代しよ」

 私の名は倭。健とは双子にもかかわらず仲がよろしくない。
 高校も同じ学校に通った。私は剣道を始め、健は弓道部に入った。ふたりとも国体に出ているほどの腕前だ。高校を卒業すると、私は道場に通って剣道を続けるつもりでいた。ところが母に反対されたのだ。お決まりのお茶とお花、お料理などの習い事を勧められた。健は弓道の道場通いを認められているというのに!
 学校の休みの日には、私は巫女、健は神主のまねごとをして家業を手伝ってきた。健はこのまま神主として後をついでいけるが、私の将来の見通しは何にもない。
 双子として同じように育てられ、同じように勉強してきたのに、女の子の立場って弱い。そういった差別を理不尽に思い、かといって私が神主になれるでもない。巫女は未婚の女性が勤めるものと決まっている。結婚したらもうできなくなる。そういったくやしさ、将来への不安と不満が入り混じって、両親に当たるだけでなく、健をも避けるようになっていた。健もいつしか私を見なくなってしまった。

 車に戻ろうとした時、急に暗くなり大粒の雨が降り出した。それはすぐに、バケツをひっくり返したような豪雨となった。川の水はみるみる増水していく。霧がハレ雨は10分ほどで止んだが、車には戻れず大きく張り出した岩の下に避難していた。川は激しく逆巻いていた。

 車を置いているあたりを見ても車は見当たらず、代わりにとんでもないものが目に入った。

「たける、あれなんや」
「やまと、あれなんや」
 ふたりは同時に同じ言葉を発していた。
作品名:神無月の饗宴 作家名:健忘真実