魔法使いの夜
さちこさん
「コンコン、コン」
「大丈夫か? ジュン」
しばらくの間石段で話をしていたけど、ぼくは冷えたせいか、だんだん咳が出てきた。今日はあきらめて家に帰ろうとしていたときだ。
「ノブ、こんなところにいたの? あんた、いったいなにやったのよ」
ノブのお母さんが血相を変えてやってきた。
「なんだよ。母ちゃん」
「ああ、ケンちゃんもヤッちゃんも……みんなそろってるね。ちょうどよかった。一緒においで」
「だから、なんなんだよ」
「こっちが聞きたいよ。そろいもそろって警察に呼ばれるなんて」
「ええ?」
ぼくはあんまり驚いたんで、一瞬咳がとまったくらいだ。みんなもあっけにとられていた。
「あんたたち、学校で何やったの?」
ノブのお母さんがそう言ったとき、突然ヤスが大声をあげた。
「いっけねえ。おれ、とうちゃんに言うの忘れた!」
ヤスはお父さんの帰りが夕べかなり遅かったので言いそびれ、そのまま忘れてしまったんだ。だけどぼくたちがこわしたのは窓ガラスだけのはず……。
けれど、駐在所にいって聞いたおまわりさんの説明では、あの廃校の集会所につかっている部屋がひどく荒らされていたという。
おまけに廊下に子供の足跡が無数についていたから、昨日校庭で遊んでいたぼくたちを事情聴取によんだのだそうだ。
「おじさん、昨日はガラスのこと黙っててごめんなさい。でもおれたちほかのことは知りません」
ケンはいいわけをせず、素直にあやまった。ぼくたちもみんな一緒に頭を下げた。
「本当だろうな」
おまわりさんは念を押していった。大きな目玉をぎょろりとさせてにらんだのでぼくたちはちょっとびびった。
「本当です。天地神明に誓って」
ケンはまじめに言った。
「君はどうなんだ。ノブ」
「え、あ、あの、おれはご先祖様に誓って」
「じゃあ、おれんちは日蓮宗だから日蓮にちかう」
と、ヤスがいうと、トシはつられて言った。
「お、おれも」
「ばかか、おまえら。おれはやってないものはやってない」
ユウジはこんな時でもクールだ。
最後におまわりさんはぼくの顔をのぞき込んだ。
「きみは? ジュン君」
「ぼくは、ぼくの良心にかけて」
それから咳込んできたぼくだけ先にかえされて、ほかの五人は昨日遊んでいたときの状況を細かく聞かれることになった。
ノブのお母さんがつきそってくれると言ってくれたけど、ひとりで大丈夫だからとぼくは断った。だって、みんなのほうがずっと心細いだろうから。
「ごほごほ……」
咳がひどくなった。このときになってぼくは今日の行動を反省した。別荘地への曲がり角のそばにさしかかったとき、ひどく咳き込んでぼくは通りに座り込んでしまった。
「ごほっ、ごほっ、ごほ……」
村で一番広い通りでもめったに人の通らない道だ。やっぱりノブのお母さんに送ってもらえばよかったと思ったけど、もうおそい。
なんとか自力で帰ろうとしたけど、苦しくて歩けなくなった。もうひとつ先の曲がり角がおばあちゃんちへの道なのに……。