魔法使いの夜
次の日、ぼくたちは神社に集まった。別にだれがさそったわけじゃないんだけど、朝ご飯がすむといてもたってもいられなくて外へでた。行く当てもないから神社へ行ってみたらいつのまにか六人全員集まったっていうわけだ。
ぼくは夜中からのどの具合がおかしくなって、今日は少し喘鳴がでてる。念のため薬を飲んで、マスクをした。案の定五人とも心配そうに聞いてきた。
「どうした、ジュン。風邪か?」
「うん。風邪をこじらすとぜんそく起こしちゃうから」
「そうか。無理すんなよ」
「よけいな心配かけるから本当はマスクなんかしたくなかったんだけどね」
それから昨日の男の人の話になった。
「きっとあれが別荘荒らしだよ。今みんなが騒いでるじゃん」
ノブが断定的に言った。
「いや、決めつけるのははやい」
「たしかに怪しいけど、証拠がない」
ケンとユウジは同じ意見だ。
「怪しいだけで十分だよ」
トシはこわがっている。
「だけど、ボールを外へ投げたのはいったいだれなんだろうね」
ぼくが言うと、みんなあらためて思い出したようだ。ケンが言った。
「そういやそうだよな。誰かがおれたちより先に校舎のなかに入っていなけりゃぜったいありえないことだもんな」
「でも、あれはゆうれいじゃ」
と言うヤスに、ケンはあきれている。
「あんときはああ言っただけだ。よく考えれば人がいたに決まってるさ」
「まあね。それがあの黒い男なのか、別の人間なのか…だよな」
ユウジの提案で、とにかくあの黒い男の正体をつきとめようということになった。
「おもしろい。探偵みたいだな」
ノブとヤスはがぜんはりきりだした。
さっそく作戦会議になった。毎日二人一組でパトロールすること、怪しい男(黒い男)を見たら深追いせず、仲間に知らせること……などを決めた。
そのとき、こつこつと石段を登ってくる音がした。ぼくたちは急いで社の縁の下にかくれた。まるで忍者みたいな気分だ。ここはかくれんぼするときにはちょうどいいんだ。
でも、今回だけはぼくにとってあまりいいことじゃなかった。ほこりっぽくてかびくさい縁の下の環境がぼくののどにいっそう悪影響を与えたんだ。でも、このときはまだ夢中だったからそれほど気にもとめていなかった。
石段をのぼってきたのは例の黒い男だった。黒い帽子をかぶっているので顔をみることができない。
「うわあ、噂をすれば…だ! さっそく正体をあばいてやろう」
ぼくたち五人は鼻息を荒くするノブを必死でとめた。
男は参拝する風もなく社の横を通って裏にまわった。ぼくらは縁の下を中腰ですすんで男の姿を追った。
男はコウモリのいる穴の前で立ち止まった。すると迷うことなくさっと中へ入った。ぼくたちはただ呆然とするばかり。
「ど、どうしよう」
震える声でトシが言った。
「出てくるまで待つしかないさ」
落ち着いたユウジに対してノブは積極的だ。
「待ちぶせしてみんなで捕まえよう」
「そんなことむりだよ」
一番小柄なヤスは自信なさそうだ。
「もしかしたら、この人は別荘荒らしとは関係ないんじゃないかな」
ケンが言った。
「じゃあ、このまま逃がすのか?」
とノブ。
「いや、出てきたら素直に何してたのか聞いてみればいいじゃないか」
ケンの言うことはもっともだ。
いきなり縁の下から出ていってはおかしいので、ぼくたちは外にでて石段にこしかけた。六人で横に並んだので通せんぼするようになる。そうすれば相手はいやでも立ち止まってぼくたちに声をかけてくるし、ぼくたちも話をするきっかけがもてる。
「でもさ、なんであんなところにはいったんだろう」
トシはますます気味悪がった。
「秘密基地があるのかな。宇宙人の」
「ばーか」
突拍子もないヤスのことばにユウジが冷たく言った。
「あの穴はなんにもなかったよな。コウモリがいたけど」
「はいったのか? ノブ」
トシは驚いている。
「うん、ケンとふたりでな」
「度胸あるなあ」
ヤスも感心している。
「おれも入ったよ」
ユウジがさりげなく言った。
「ひとりでか?」
トシは目をまん丸くしている。
「ああ、防空壕のあとだって聞いてたから、どんなのかと思ってさ」
「すごいなあ、みんな」
「それにしてもまだでてこないのかな」
しびれをきらしたノブが立ち上がった。そして後ろをむいたとたん、ノブは叫んだ。
「ああー、あいつ」
一斉にふりむくと、あの黒い男が裏山を登って行くのが見えた。人一人がやっと通れるだけの細い急な坂道だ。以前、ぼくもみんなと登ったことがあるけど、こわかった。
でも登り切るとすごく景色がよかったのを覚えてる。ぐるっと山の尾根がみえて青い海が山のあいだから見えて……。
ノブはくやしがって舌打ちした。
「ちっきしょう。あいつ。おれたちが待ち伏せしてるの、ばれたのかな」
しかたなく、男が山から下りてくるのを気長に待つことにした。