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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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魔法使いの夜

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「ただいま」
「おかえり、ジュン。東京のおばあちゃんからいいものが届いたよ」
 見るとクリスマスケーキだった。毎年おばあちゃんが有名店に予約してくれてるやつだ。イブの夜にはパーティをしてたけど、今年は急に田舎にきちゃったから、わざわざ冷凍して送ってくれたんだ。ローストビーフや子供向けのシャンパンまである。
 ぼくはさっそく東京にお礼の電話かけた。おばあちゃんはぼくの声を聞くとすごく喜んで、ぼくが返事をする間もないくらい次から次へといろんなことをまくしたてた。
 変なもの食べるなとか、夜更かしするなとか、うがいと手洗いはかかさずにとか……。
「はあ……」
 受話器を置くとぼくは思わずため息をついた。まるで東京のおばあちゃんに元気をすいとられちゃったみたいだ。
「ジュン。みんなを呼んであげたら?」
 でも、こっちのおばあちゃんの声でぼくは急に元気を取り戻した。
「いいの?」
「ふたりじゃこんなに食べきれないし、みんなにはお世話になってるからね」
 それからおばあちゃんは得意の卵の巻きずしを作ってくれた。
 夜七時頃、今日一緒に遊んだ五人の友達が次々にやってきた。最初に来たのはケン。
「おじゃましまーす。ジュン、クラッカー持ってきたよ」
「うわ、すっげえ、ごちそう」
「クリスマスを二回もできるなんて今年はラッキーだね」
 ノブとヤスははしゃいでいる。
「おれ、飯加減して三杯でやめといた」
 大食漢のトシらしい。ユウジが驚いていた。
「三杯も食ったのか? おれなんか食べかけたけど途中でやめたんだぞ」
「何いってんだケーキは別腹さ」
 そうしておなかいっぱい食べて、いろんな話をして楽しい時間はすぎていった。
「おや、もう九時になるね。いくら休みでもおそくなっちゃいけないね」
 おばあちゃんのひと声でクリスマス会はおひらきになった。ぼくはみんなを通りまで見送るためにいっしょに家をでた。
 青白い月がでていて、明るかった。
「明かり、いらないな」
 一度はつけたペンライトを消して、ケンがいった。そのとき、ヤスがふざけだした。
「勝負!」
 ペンライトの光をSF映画にでてきたレーザーの刀みたいにふりまわした。
「なんの!」
 すぐに応戦したのはノブだ。ふたりはわりとのりやすい。
「おれもやる。こっちはバズーカだ」
と大きな懐中電灯を肩のうえで構えたのはトシ。
「ガキだな」
 クールなユウジはぼそっとつぶやき、ケンは笑ってみている。ふたりは大人というか、さめたところがあって、すぐにはのっていかない。
 月明かりに細いあぜ道がいくすじも白く浮かんでいる。ぼくたちはチャンバラごっこをしながら通りまででた。
「じゃあまたね」
「うん、ごちそうさま」
「うまかったよ」
 そうして別れようとしたときだった。別荘へいくほうの道のかどをユウジが指さした。
「あ、あれ」
 小さな裸電球が一つついているだけの街灯の下に、やせて背の高い人の姿があった。
「あれか? 昼間見たってのは」
 ケンがぼくに聞いた。
「うん。まちがいないよ、ね、ユウジ」
「ああ。でも、なにやってんだろ」
 後ろ姿みたいだけど、どうも空を見ているようだ。つられてぼくたちも空を見上げた。すると、月を横切って黒い影が飛んでいるのが見えた。
「なんだ。あれ」
「鳥みたいだけど…」
「コウモリだ」
「え、だって今冬眠してるだろ」
 けれどたしかにそれはコウモリとしか思えない翼の形だった。そのときピーッと口笛の音がした。すると黒い人影のほうへコウモリは飛んでいった。
「わあ」
 ぼくらは声をあげると、てんでに家に逃げ帰った。
 落ち着いて考えるとどうして逃げだしたのかわからない。でもコウモリが飛んでいったことでなんだか普通じゃないような気がしたからだ。
「もしかしたら魔法使いかな」
 ぼくはそう思うと、なんだかどきどきして眠れなかった。
作品名:魔法使いの夜 作家名:せき あゆみ