魔法使いの夜
別荘荒らし
ぼくとケンとノブはおなかがすいたので、いつも行く駄菓子屋へ寄った。そこは夏はかき氷とところてん、冬になるとおしるこやおでんを作っている。
「おや、ジュンちゃん。冬休みは初めてだね」
ここのおばちゃんとも顔なじみだ。
「おばちゃん、ぼくおでん。前から一度食べたいって思ってたんだ」
そうして店の前のベンチに座ってケンとノブはカップのちびめんを、ぼくはおでんをたべた。大ぶりのおわんにこんにゃくとちくわと昆布をいれてもらった。だしがしみてておいしい。
「ずいぶん幸せそうな顔してるな。ジュン」
「そんなんで幸せになれるなんておめでたいね」
ケンとノブは言いたいことを言ってる。でもぼくは何を言われてもいいんだ。だって田舎にきた開放感はぼくにしかわからない。
もし東京のおばあちゃんにこんなところを見られたらたいへんだ。駄菓子屋にはいったことでまず叱られ、外で何かを食べたってことで叱られる。おまけに食品添加物がどうしたとかこうしたとか、くどくどとお説教だ。ぼくの体のことを心配してくれるのはわかるけど……。
それにぼくだって気をつけていいつけを守ってる。カップのラーメンは絶対食べないもん。だからケンとノブはちょっと不思議がってる。でも、せっかくおいしく食べてる二人にけちをつけるようだから言わない。それに添加物のことは四年生の時に習ってとっくに知ってることだしね。
田舎にきた開放感はもう一つある。友達だ。東京でのぼくは体育を休みがちだから、サッカーやソフトボールがへたで仲間はずれにされる。授業中具合が悪くなったときなんかも心配するより迷惑がるやつのほうが多い。勉強のことでは成績をさぐりあったり、けん制したり、心をゆるせる友達はほとんどいない。
毎年田舎に来ていても低学年の頃まではひとりぼっちで、おばあちゃんのあとばかりくっついてた。ある朝、ケンとノブがぼくをさそいに来てくれたんだ。それがすっごくうれしかった。
田舎の友達はぼくがみんなの足手まといになっても、決してばかにしたり怒ったりしない。むしろどうやったらいいかってアドバイスしてくれる。
ここでは笑うことも驚くことも、なにもかもが自然に心の底からわきあがってくる。だからおでんを食べることくらいで幸せな気持ちになれるんだ。
腹ごしらえをして体も温まったのでなにをしようかベンチで話し合ってるとき、駐在所のおまわりさんがやってきた。ケンのおじさんだ。
「おう、ケン。変な人を見かけなかったかなあ」
「どうしたの? おじさん」
「別荘荒らしのことはおまえも知ってるな」
「うん。今月に入ってからいくつかあったって」
「それが冬休みにはいったとたん、被害届が増えてな。しかも今日はちょうど着いたときに逃げていく別荘荒らしを見たっていう人もいて……」
一瞬、ぼくの頭をさっき見た黒ずくめの男がよぎった。そのことを言おうとしたら、ケンがそれをさえぎった。
「じゃあ、まだ犯人はこのへんにいるんだ」
「ああ、年末だし、村からでる道路は県警がきて全部検問をしてるからな。」
「わかった。おじさん、ぼくたちも協力するね」
おまわりさんの姿がみえなくなると、ぼくはケンに聞いた。
「なんでぼくに言わせなかったの」
「そうだよ。ジュンが見た黒いやつのこと話しとけばよかったのに」
ノブも言った。
「だって、学校の中ならその可能性もあるけど、外だったんだろ? それにおれたち窓ガラス割ったじゃないか。そのこともきちんと報告してないのに言ったらややこしくなる」
ケンの言うとおりだ。ぼくとノブは言い返せなかった。