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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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魔法使いの夜

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 ボールの謎はそのままでも、ガラスを割ったことは黙っているわけにもいかない。いくら廃校になったとはいえ、部分的に集会所として使ったりしてるから、かならず大人にばれる。
「おれも男だ。いさぎよく母ちゃんに叱られるか」
 トシは覚悟をきめたようにいった。
「まてよ。六人でやってたんだ。おまえでなくてもだれかがやったかもしれない。連帯責任だ」
 ケンがいった。リーダー的な存在のケンはいつも的確な判断をする。ノブもほかのみんなもケンの意見に賛成だった。
「ジュン。おまえ、ばあちゃんに迷惑かけるとまずいんじゃないか」
 ユウジがぼくの立場を心配してくれた。
「ぼくもみんなと同じにして。それに六人のほうが弁償するガラス代もひとりの負担が少なくなるじゃない」
「そうか?」
 トシは申し訳なさそうにいった。
 こんなときぼくは田舎はいいなって思う。東京ではいくら友達でもこんなとき、やった本人だけが責任をかぶることになる。
「で、誰にいいにいけばいいんだ?」
 ケンがいうので、ぼくはみんなに聞いてみた。
「ここを管理してるのはどこ?」
 すると、ヤスが言った。
「あ、役場だよ。だったらおれがとうちゃんに話す」
「ヤスのとうちゃん役場に勤めてるもんな。よかった。たすかった」
 トシは安心したような声を出した。お母さんがそうとう怖いらしい。
 ガラスの問題の解決法は決まりがついたので、ぼくらはまたサッカーをはじめた。今度は校舎からできるだけ離れて。
「あ」
 ぼくはノブからまわされたパスをうけそこねた。ボールはころがって校舎のはじのプラタナスの木のほうまでいってしまった。
「ジュンのへたくそ」
 ノブの声を背中で聞きながら、ぼくはボールを追った。後ろからボールをうばおうとしてユウジが追いかけてきた。ユウジは足が速い。ぼくの足がボールに触れるのとほとんど同時にユウジも足をだしてきた。そのときふたりでもつれあってひっくりかえってしまった。
「いたた」
 ぼくとユウジが起きあがろうとしたとき、校舎のかげからさっと黒い人影が立ち去るのが見えた。
「今の見た? ユウジ」
「見た見た。背が高かった。男だよな」
「うん。黒ずくめだった」
 ぼくたちがサッカーそっちのけで話し始めたので四人が走ってきた。
「どうしたんだよ。ふたりとも」
「今、へんな人がいたんだ。真っ黒けな格好した」
「人?」
 いぶかしそうにノブが聞き返したので、ユウジが答えた。
「うん。校舎のかげにかくれてたみたいでさ。おれたちが見たらまるで逃げるような感じで…な」
「うっわあ。もしかしておばけかな」
 この手の話が大好きなヤスはおもしろがっている。
「やだよ。おれはにがてだ」
 大きな体のわりにいくじのないのがトシだ。
 でも、それっきりぼくたちはサッカーの気分じゃなくなってしまったので、もとのように三人ずつに別れた。

作品名:魔法使いの夜 作家名:せき あゆみ