魔法使いの夜
怪しい男
午後からぼくたちは廃校になった小学校の校庭で遊んだ。ケンとノブは二年生までここに通っていたそうだ。今は十キロも先の学校に通ってる。
三人でサッカーをしていたら、同級生が三人やってきた。ヤスとユウジとトシだ。みんなぼくとも顔見知りだ。
「ジュンじゃないか」
三人ともぼくたちの方に近づいてきた。
「ちょうどいいや。三対三で試合しよう」
ノブの提案でさっそく試合が始まった。
「シュート!」
体の大きいトシが思いっきりボールを蹴った。ケンがこれをとめようとしたけど間に合わず、ボールは勢いよく飛んで、窓ガラスを割って校舎に飛び込んだ。
ガッシャーン!
「ありゃー、まいったね」
ボールを取るには鍵のかかっている校舎の中へ入らなきゃならない。一番奥の裏手の入り口の鍵が壊れていたことを思い出した。
ボールが飛び込んだのは真ん中あたり。ちょうど職員室だ。ちょっと遠まわりになるけど、肝試しの気分でぼくらは全員で中に入った。
「お、二年一組」
「おれたち、ここにいたんだもんな」
ケンとノブはなつかしがっている。
「この落書き、おれんだ」
ぼくは柱を見た。マジックで大きくヤスって書いてある。
「きったねえ字」
ユウジがぼそっといった。
「うるせえ」
「そういえば、だれだっけ? 便所にはまったの」
「ケンだよ」
「ほっとけ」
みんないろんなことを思い出している。学校がなくなる気持ちはぼくにはわからないけど、きっと特別な思いがあるだろうな。
そうこうしているうちにボールが飛び込んだあたりにやってきた。
「よりによって職員室かあ」
ノブがつぶやいた。
「いたずらしてよくここにたたされてたな。おまえ」
と、ケン。
「やなこと、思い出すなよ」
「さっきの便所のおかえしだよ」
ケンとノブのやりとりを聞きながら職員室にはいった。ところが部屋中さがしまわったけど床にボールがない。
「へんだな」
首をかしげていると、ヤスが叫んだ。
「ああ! み、みろよ。ボールが」
ぼくらは驚いた。部屋の中にあるはずのボールが校庭にころがっている。みんな声もなく顔をみあわせた。
「わーっ」
だれが最初にさけんだのかわからないけど、連鎖反応のように叫びながらぼくらはわれがちに職員室をでると、もときた廊下を走って校舎から出た。
「あーびっくりした」
みんな青い顔している。
「でもこれ、本物のボールだよね」
ぼくがだれにいうわけでもなくきくと、ケンが答えた。
「うん」
するとヤスがいった。
「まるで真冬の怪談だな」
ぼくは今朝のおばあちゃんの話を思い出した。
「そういえばさ、冬のほうがゆうれいがでやすいっておばあちゃんが」
「ジュンのばあちゃん物知りだからな」
ケンが納得したようにいうと、みんなもみょうにそれで納得してしまったんだ。