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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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魔法使いの夜

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怪しい男


 
 午後からぼくたちは廃校になった小学校の校庭で遊んだ。ケンとノブは二年生までここに通っていたそうだ。今は十キロも先の学校に通ってる。
 三人でサッカーをしていたら、同級生が三人やってきた。ヤスとユウジとトシだ。みんなぼくとも顔見知りだ。
「ジュンじゃないか」
 三人ともぼくたちの方に近づいてきた。
「ちょうどいいや。三対三で試合しよう」
 ノブの提案でさっそく試合が始まった。
「シュート!」
 体の大きいトシが思いっきりボールを蹴った。ケンがこれをとめようとしたけど間に合わず、ボールは勢いよく飛んで、窓ガラスを割って校舎に飛び込んだ。
 ガッシャーン!
「ありゃー、まいったね」
 ボールを取るには鍵のかかっている校舎の中へ入らなきゃならない。一番奥の裏手の入り口の鍵が壊れていたことを思い出した。
 ボールが飛び込んだのは真ん中あたり。ちょうど職員室だ。ちょっと遠まわりになるけど、肝試しの気分でぼくらは全員で中に入った。
「お、二年一組」
「おれたち、ここにいたんだもんな」
 ケンとノブはなつかしがっている。
「この落書き、おれんだ」
 ぼくは柱を見た。マジックで大きくヤスって書いてある。
「きったねえ字」
 ユウジがぼそっといった。
「うるせえ」
「そういえば、だれだっけ? 便所にはまったの」
「ケンだよ」
「ほっとけ」
 みんないろんなことを思い出している。学校がなくなる気持ちはぼくにはわからないけど、きっと特別な思いがあるだろうな。
 そうこうしているうちにボールが飛び込んだあたりにやってきた。
「よりによって職員室かあ」
 ノブがつぶやいた。
「いたずらしてよくここにたたされてたな。おまえ」
と、ケン。
「やなこと、思い出すなよ」
「さっきの便所のおかえしだよ」
 ケンとノブのやりとりを聞きながら職員室にはいった。ところが部屋中さがしまわったけど床にボールがない。
「へんだな」
 首をかしげていると、ヤスが叫んだ。
「ああ! み、みろよ。ボールが」
 ぼくらは驚いた。部屋の中にあるはずのボールが校庭にころがっている。みんな声もなく顔をみあわせた。
「わーっ」
 だれが最初にさけんだのかわからないけど、連鎖反応のように叫びながらぼくらはわれがちに職員室をでると、もときた廊下を走って校舎から出た。
「あーびっくりした」
 みんな青い顔している。
「でもこれ、本物のボールだよね」
 ぼくがだれにいうわけでもなくきくと、ケンが答えた。
「うん」
 するとヤスがいった。
「まるで真冬の怪談だな」
 ぼくは今朝のおばあちゃんの話を思い出した。
「そういえばさ、冬のほうがゆうれいがでやすいっておばあちゃんが」
「ジュンのばあちゃん物知りだからな」
 ケンが納得したようにいうと、みんなもみょうにそれで納得してしまったんだ。
作品名:魔法使いの夜 作家名:せき あゆみ