魔法使いの夜
始まりの朝
新年の朝。以前から初日の出を見ようとケンたちと約束していたから、五時に起きた。もちろんおばあちゃんたちにはないしょだ。こんなけがじゃ外へなんか出してもらえない。
となりに寝ているお父さんを起こさないように、そうっと支度をして外へでるとお母さんがいた。
「あら、よく起きられたわね」
「ど、どうして」
「ジュンの考えてることくらいわかるわよ。だめって言っても聞かないだろうから、つきあってあげる」
お母さんと一緒に待ち合わせの場所に行くと、みんなはもう来ていた。
「おめでとうございまあす」
五人が声をそろえてお母さんにあいさつした。
「去年はお世話になりました。今年もよろしくね」
一番景色のいい花立山へいこうと歩き出したら、オートバイの音が近づいてきた。
「まって。私もいく」
さちこさんだった。でも今日のオートバイは普通のだ。
「さっちゃん、ジュンがお世話になりました。ありがとう」
さちこさんはこのときはじめてお母さんに気がついて、ちょっとぽかんとしたかと思うと、
「のりちゃん!」
と、叫んで抱きついた。
女同士のおしゃべりは山のてっぺんにつくまで、いやついても続いていた。さちこさんはオートバイにぼくを乗せて、歩いて引っ張ってくれた。
「でも、あねご。あのバイクは?」
ヤスはまだ子分のつもりでいるらしい。
「あれは、もう乗らないの。ダンナとの思い出だから……」
少しの間みんな何も言わなかった。それからお母さんが口を開いた。
「そういえば、さっちゃん。お子さん、いるんだって?」
「うん。三つなの。もう、こっちにきたらおじいちゃんがかわいがってかわいがって、はなさないの。子供のほうもおじいちゃん大好きなんだ」
「よかったわね。帰ってこれて」
「うん。帰る場所があるって、幸せなんだね。この村が大嫌いだったのに」
空が白んできた。あたりはようやくぼんやりと人の顔がわかるくらいの明るさだ。さちこさんの目にきらっと光るものが見えたような気がした。
「おーい、ジュン。こっちへこいよ」
一足先に登っていたケンたちがぼくを呼んだ。ぼくはオートバイから下りて歩いてみんなのところに行った。
「ここが一番よくみえるぜ」
ノブがぼくに場所をゆずってくれた。ヤスは一番に見るといって木に登り、ユウジは柵に腰掛けている。ケンとぼくとノブとトシがならんで立った。
東の空が朱色に染まってきた。水平線のうえには紫色の雲がかかっている。
「あの雲、どかないかなあ。日の出がみえない」
ノブが言うと、ケンが言った。
「あれは天気のいい証拠。太陽が水平線からスポッとあがると天気が悪くなるんだって」
冷たいけど気持ちいい朝の空気。ぼくは胸一杯にすいこんだ。
「あ、出てきた」
木の上からヤスが叫んだ。
雲の間からオレンジ色の太陽が顔を出した。二十一世紀の初日の出だ。
そのときユウジが柵から下りてぼくのそばへやってくると、ガッツポーズを見せた。ぼくも笑って同じように返すと、ケンがぼくとユウジの肩をたたいた。
「ばんざーい」
ノブとヤスとトシが叫んだ。続いてぼくたちも。
さちこさんがそっとぼくにささやいた。
「よかったね。ジュンはほんとの仲間だよ」
「え?」
「このあいだ、ケンとしてた話。わたし、聞いちゃったんだ」
だからあの日も……とぼくは思った。あの犯人を追いつめた時、ぼくを励ましてくれたんだ。