魔法使いの夜
思いがけず、家族全員田舎でお正月を迎えることになった。ぼくは本当は除夜の鐘をきくまで起きていたかったけど、身体が本調子じゃないからとむりやり布団にいれられた。お父さんとならんで横になった。ふたりのおばあちゃんとお母さんは、女同士三人で話をしている。ときどき笑い声が聞こえてくる。
「お父さん。ごめんね、心配かけて」
ぼくは昼間ちゃんとあやまれなかったので、あらためていった。
「なんだい、あらたまって。男は元気がいいんだ。お父さんだって子供の時は腕白で、けがばっかりしてたんだ」
「ええ、ほんと?」
「車にはねられて死にかかったこともあるんだ。だから、おばあちゃんは、ジュンがけがしやしないかとびくびくしてるんだよ」
「そうだったの」
「ジュンはお父さんがおばあちゃんのイエスマンだと思ってるだろ」
「う……」
うっかり返事をしそうだったけど、すんでのところでやめた。
「でも今まで決めてきたことは、全部が全部おばあちゃんの言うとおりじゃないだろ」
そういえばそうだ。お父さんが転勤になったとき、おばあちゃんはぼくをあずかるからお母さんに一緒に行くようにって言ったっけ。でも結局お父さんが一人で行くって決めたんだ。
「おばあちゃんだって自分のわがままでいってるんじゃない。みんなのことを心配してるからだろ」
「そう……なんだ」
「だからお父さんはおばあちゃんの気持ちも大事にして折り合いをつけてるんだよ。だからお母さんはなにも文句言わないだろ?」
「うん」
折り合いをつける……か。みんなが満足するなんてありえないことだから、少しづつゆずりあってがまんする。それでものごとはうまくいくんだ。
ぼくの場合は自分自身に折り合いをつけられないからだめなんだ。東京ではいやなことがあると、(いなかだったら……)なんてすぐ思っちゃう。それでうまくいかないのかもしれない。
少し自分のことが見えてきたような気がした。