魔法使いの夜
「ところでさ、ジュン」
「なに、さちこさん」
「君はわたしのこと、なんだと思ったの?」
ぼくは一瞬どきっとした。でもわざととぼけた。
「え? なにが?」
「なにじゃないでしょ。ほら、みんなコウモリ男とか、ドラキュラとか、好き勝手なこといってたじゃない。ジュンもきっと思ったはずよ」
そういって腕をぼくの首にまわした。
「さあ、白状しなさい」
「く、くるしいよ」
「あら、どうしたの?」
ぼくらがふざけているのを見てお母さんが言った。
「ジュンがねえ、わたしのことを……」
「ごめんなさい。魔法使いだと思ってました!」
ぼくが叫ぶと、さちこさんの手がはなれた。
「魔法使いねえ。たしかにあのときはそうだったかもね」
さちこさんはくすくす笑い出した。みんなもあのときのことを思い出して笑った。
「なに? どうしたの」
わけを知らないお母さんだけがきょとんとしていた。
たしかにさちこさんは魔法使い、いや、魔女だ。それもほうきじゃなく改造したナナハンに乗った。
笑いながらぼくは、ぼくだけが知っているあの空を飛んだときのことを思い出していた。
きっと魔法ははじめての夜からぼくにかけられていたんだ。あの青白い月の光に。あの光がぼくたちとさちこさんをひきあわせたんだ。
「わたし、お正月明けから、町の総合病院で働けることになったの。昨日電話があったの」
「ほんと? よかったね」
「よかったわね。さっちゃん」
「うん、がんばる。わたし」
山を下りる頃、太陽は白くまぶしくなった。
二十一世紀はなにが起こるんだろう。ぼくたちはどんな大人になっていくんだろう。期待と不安を胸にみんなは今年の抱負や夢を語り合っている。
輝く朝日の中で、ぼくは新しくなっていく自分を予感していた。
おわり