魔法使いの夜
よそもの
目が覚めたら朝だった。火鉢のうえのやかんは白い湯気がしゅうしゅうと音をたてていて、部屋は十分暖かかった。
おばあちゃんがかけてくれたのだろう。ぼくの背中には毛布とかいまきがかかっていた。こたつはスイッチを切ってあって、かわりにあんかがはいっていた。
「目が覚めたかい? 気分はどう」
「うん。だいぶいい」
喘鳴はほとんど聞こえなくなっていた。
「さちこさんがね。そうして寝かせておいた方がいいって。喘鳴がおさまったら普通にねかせるようにって教えてくれたんだ。さすが看護婦さんだね」
「ぼく、ずいぶん寝たんだね」
「ああ、夕飯も食べずにね。でも、そんな格好でよく疲れないねえ」
「うん、発作が起きると横になって寝ていられないんだ。小さいときは一晩中お母さんが抱いていてくれたんだよ」
見るとぼくのまわりには丸めたふとんが置いてあった。きっと倒れてもいいようにおばあちゃんがしてくれたんだ。
いつもなら一週間は起きられない発作だったけど、こんなに早くよくなったのはさちこさんのくれたお茶が効いたのと、田舎のいごこちによさのおかげだと思う。
ぼくはお母さんや、とくに東京のおばあちゃんには発作が起きたことを黙っていてくれることを条件に、今日はおとなしくするっておばあちゃんと約束した。
「まったく、この子は……」
おばあちゃんはあきれて笑っていた。
お昼すぎにみんながやってきた。
「よかった。元気そうじゃん」
「うん。昨日はごめんね。あれからどうだった?」
「へへ、しっかりしぼられたよ」
ノブが頭をかいた。
「悪かったな。おれさえとうちゃんに話しとけば……」
「ヤス、それはいいんだって」
ケンがヤスをなだめた。
「それでな、別荘荒らしと学校を荒らしたのは同じやつだろうって。黒い男のことは結構村でも評判になってるんだ。だからおれたちで捕まえようってことになったんだ」
ユウジが言ったので、ぼくはちょっと得意げに話した。
「ぼく、黒い人の正体わかったよ。あの人は犯人じゃない」
「ええ!」
みんなが驚いたそのときだった。
「こんにちわ」
さちこさんの声がした。なんていいタイミングだ。
「ほら、うわさをすれば」
「え? 女の人の声じゃんか」
みんな目を白黒させている。おばあちゃんがどうぞって言って、さちこさんがあがってきた。そうしてぼくの寝ている部屋の障子をあけた。
「ジュン君、具合どう?」
思った通り今日もさちこさんは黒ずくめだ。五人はびっくりして、すっとんきょうな声をあげた。
「こうもり男」
「ドラキュラ」
「宇宙人」
いつのまにかみんな好き勝手なあだ名をつけていたので、ぼくはおかしくて笑ってしまった。さちこさんはきょとんとしている。
本当のことがわかるとみんなで大笑いになった。ぼくは笑いすぎて咳き込んでしまったほどだ。
ヤスが息をきらしながらいった。
「なあんだ。坂下のおっちゃんちの人だったのかあ。そういえば母ちゃんがいってたことがあるよ。すっごい不良娘がいたって」
五人ともさちこさんのうわさは聞いたことがあったらしい。
「それをいわれると……」
さちこさんは顔を赤くした。
「でも」
と、さちこさんは向き直ると真顔になった。
「わたしも誤解されるようなことをしたのはいけなかったけど、昔の罪滅ぼしに犯人を捕まえようと思う」
「かあっこいい。あねご!」
ヤスがさけんだ。
「おれたちも疑われたんだ。黙っていられないよ」
負けず嫌いのユウジのことばはみんなの気持ちを代弁していた。