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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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魔法使いの夜

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 別荘地は数年前から東京の不動産会社が、『定年後の永住に』とか、『週末の別荘に』とか銘打って売り出した分譲地で、もともとはゆるやかな山の斜面だった。
 値段も格安で、都内に一戸建てを持つ夢をあきらめたサラリーマン家庭に人気がでて、売れているそうだ。毎年ぼくが来るたびにどんどん家が建って、もう二百軒くらいになっている。
 家並みだけみているとちょっとした町のようだけど、定住しているのはほんの数軒でふだんは静かだ。それでも週末になると人がきて活気づく。
 この村から別荘地へ下りていく道は一本だけだ。でも新しい道なので自転車を走らせると気持ちがいい。ぼくたちもたまに別荘地のなかにある人造湖のそばの公園に遊びに行く。まるまる太った鯉がいてえさをやるのが楽しいんだ。
 この夏には別荘にきていた同じくらいの男の子とも顔見知りになった。
「今日は二十七日か、明日までが勝負だな」
「うん、仕事納めがすんだら、二十九日にはみんな来るからな」
 ケンとユウジが中心になって作戦会議が始まった。さちこさんは昨日のお茶を置くと、町に用事があるといって帰っていった。
「おれ、ちょっと別荘のほうみてくるよ」
 ノブが立ち上がった。
「ほら、夏に知り合ったあいつんとこ。名前忘れたけど、行ってみる。なにかわかるかもしんないから」
「じゃあ、おれもいく」
と、ヤスが言った。
「じゃあ、頼むよ」
 すると、トシが言った。
「おれはどうしたらいい?」
「おまえは犯人をつかまえるとき力を貸してくれ」
 ケンに言われてトシは力こぶを作ってみせた。
「ようし、まかしとけって」
 それからユウジがケンに聞いた。
「なあ、ケン。おまえおじさんからなにか聞いてないのか? 犯人の人相とか服とか」
「それが目撃者が少なくて。後ろ姿を遠目に見たって感じだからよくわからないんだって。黒っぽい服装だったらしいけど」
「そうかあ、じゃあ黒ずくめのさちこさんは疑われるな」
 ぼくはケンとユウジの会話を黙って聞いていた。やっと発作がおさまったばかりでは、なんの役にも立てそうにない。われながら情けないと思う。
「そんなにがっかりするなよ。ジュン」
 ふいにケンが慰めるようにぼくに言った。まるでぼくの心がわかるみたいだ。ケンの気遣いがうれしくて気持ちが軽くなった。
 けれどそれもつかの間、次のユウジのことばがとげのようにささった。
「よそもののおまえにまで心配かけて悪いな。でも、おれたち土地の者の名誉にかかわることだからな。絶対おれたちが捕まえてやる!」
(よそもの?)
 それは何気ないひと言だったし、ユウジだってぼくのことを気遣って言ってくれたことだ。わかっていても心のすみにひっかかった。
 ぼくはよそものなんだ。それはそうかもしれない。一年のうち一ヶ月しかここにいないんだもの。だけどその一ヶ月がぼくの一年間にどれだけの影響を与えてるか。ぼくにとってみんなはかけがえのない友達なのに。
 ノブとヤスがもどってきた。
「あいつの家もやられたって。黒い服のやつだってさ」
「大人が何人かで追いかけたけど、見失ったっていってた。かなり土地に詳しいやつだぜ」
 別荘でのようすをいろいろ話していたけど、なんだか急にみんなが遠い存在に思えてきた。
 その晩、ぼくはなかなか寝つかれなくて、障子ごしの明るい月の光をじっとみつめていた。涙がぽろぽろ出て、いつまでもとまらなかった。
作品名:魔法使いの夜 作家名:せき あゆみ