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ACT18 Hunting High and Low

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 ともかく、機動試験はもう終わったのだ。




***************




 かくして機動試験は終わり、オーバーヒートしたXA00が試験場から引き上げ作業をしているその頃、ビンセントは格納庫場脇の道を走る車の助手席で踏ん反り返っていた。運転席にはハリー。例の事故から24時間、初の出勤。
 車内ではビンセントがハリーに事のいきさつを話していた。
「……そんで、その後どうなったんすか?」
 運転席のハリーが助手席のビンセントに問う。答えるビンセント。
「どうにもこうにも一発免取、修理費加算、おまけに減俸よぉ、泣きてぇよ俺は」
「でも相手が無事でよかったじゃなっすか。何かあったらユリア姐さんまた心配するし……」
「あー、あいつは、うん、まあ……」
 言葉を濁すビンセントに、ハリーはため息一つ。
「しっかし、どうしようかね、稼ぎ口なんてありゃあしないし、今月カツカツ。俺一人寂しく泣き濡れてビンボー生活」
「ああ、あれっすね、泣きっ面に蜂」
「フムン……」
「あと自業自得?」
 突然、ハリーの首を両手で絞めるビンセント。
「一言多いんだよ、お前は!」
「ぐぇ、やめでぇ!」
 ビンセントは首を絞めたまま腕を前後させて、ハリーの頭をがくがく。
「このヤロ! このヤロ!」
「ちょ、ちょっと運転中! 運転中!」
 ビンセントに首を降られ、左右に蛇行する車。その頃車の後ろからは、一台の大型トレーラーが猛スピードで迫っていた。クラクションを鳴らすトレーラー。それに気付いたハリーは、ブレーキをかけることなく、クラッチとアクセルワーク、シフトチェンジで即座に反応する。
「うわっ、ちょ、あっぶねぇ!」
 追い越して行くトレーラーの起こす、突風の様な風圧に揺られて、道を逸れる車を間一髪、ハンドルを切って立て直すハリー。トレーラーはけたたましいクラクションを鳴らし続けながら、ビンセント達を追い抜いていく。
「オイ、なんだありゃー!?」
 ビンセントは助手席の窓から身を乗り出し、風圧が巻き起こした砂埃に目を細めながら走り去っていく輸送車を眼で追う。輸送車にはサンヘドリンのエンブレム。トレーラーの正体はHMA輸送車だ。
「あれ、聞いてないんすか?」
「何を?」
 助手席に戻りシートに座り直すビンセントに、ハリーは答える。
「技術部さんとこの新型機、今日試験で多分あれがそうっす」
「機動試験?」
 ハリーの言葉に、ビンセントはグラムの言葉を思い出した。
 ――グラムの言ってた新型機ってのはあの事か。ん? でもなんで……
「なんでお前がそんなこと知ってんだ?」
「ああ、サブさんに聞いたんすよ。旦那ならかじりついてくるだろうって」
 再び首を絞めるビンセント。
「そういう事はもっと早く言えよ!」
「ぐぇー!」
 がくがくがくがく。車は蛇行。ガムテープで留めた左ヘッドライトがポロリと取れる。
 だが今は、ハリーをシメるよりやるべき事がある。
「まあいいや、折角の機会なんだ。有り難く、拝ませてもらおうぜ」
 首を絞めたまま、ビンセントは子供っぼく笑い、ウインク。
 ハリーは「アイサー!!」と答え、トレーラーを追うべく、車のアクセルを踏み込んだ。


 トレーラーを追いかけ、ビンセント達が駐機場に入った頃には、トレーラーは荷である機動装甲を降ろしている所だった。
 トレーラーの荷台、巨大なブロック状コンテナの屋根が縦二つに割れ、左右の壁ごと大きく開くと、中の機体が仰向けに横たわっているのが見え、機体は、自身が横たわる床ごと持ち上げられ、やがて起立した。
 その姿は、何度見ても壮観だった。機動装甲は身の丈15mを超す鉄の巨人だ。しかも、今目の前にいるのは新型機だ。肩の巨大な推進機関に、いかにも重装甲な胴体。手足は力強く太い。
 巨人の側に寄り、腕を組み、見上げるビンセント。それと同じように、整備部や技術部のツナギ組達が、機体の周りに集まりはじめ、その中にサブの姿があった。
「よぉー、ビンセント、事故ったんだってぇー?」
 嫌味ったらしくにやけながら寄ってくるサブ。
「なにお前、なにお前、嫌味? 嫌味?」
「何で二回言うよ」
「大事な事だからだよ!」
 ビンセントは口をひん曲げて抗議するが、今は機体の方が第一だ。
「で、これは?」
 親指で機体を指すビンセントに、サブは耳元で言う。
「HMAーh2YF/XA00、重攻撃戦闘型機体。こう、ヒシヒシと来るモノがあるでしょ」
 しばらく見合い、二人してにやけるビンセントとサブ。
「やべーよサブ! これが俺達のモノになるのか!!」
「ならないってば! これは量産型じゃないんだし、第一これにはもう乗員がいるの!」
「お前、こういうのは俺が乗った方が一番だって!」
 ビンセントがそう言った、その時だ。
「騎士に、間抜けな男は相応しく無いわ。特に、人を車で撥ねるような男はね?」
 背後から投げ掛けられた挑発的な言葉に、サブは身震い。一方ビンセントは眉を歪めて振り向き、言葉を失った。
「誰が間抜け……だ……!?」
 そこにいたのは、セミショートヘアーの女だった。顔立ちは東洋人のようで、歳は20代後半といったところか。着ているスーツはパイロットスーツではなく、イクサミコ用のコネクトスーツ。だがビンセントは、そのボディーラインに見覚えがあった。
 昨日撥ねた、バイクの……
「いやー、その節はどうも……」
 恭しく、腰を低くするビンセント。いたずらっぽく微笑むイズナだが、眼は笑っていない。ビンセントは昔、これと同じ眼で見つめられた事がある。もっとも、そのあと刃物を持って追いかけ回されたが。
「始めまして、ではないわね。よろしく、キングストン大尉」
 突然、ビンセントに“左手”を差し出すイズナ。左手で握手を求めるイズナを不信に思いながらも、ビンセントは彼女の左手を握り、握手。
「これで仲直り、とはいかねぇか……?」
「さあ、どうかしらね?」
 突然、イズナの左手がビンセントの手にぎりぎりとめり込む。
「あ、あれ? なんか痛いな、イタタタタ、イ、イズナさん!?」
 ビンセントの手をイズナの左手が締め上げると同時に、イズナは言う。
「私がどうなろうとどうでもいい。だが、あの子は、XA00は私がいなければ舞う事が出来ない。だと言うのにお前は……」
 その時突然、二人の間にハリーが割って入った。
「この機体、出力デカそうな割には繊細っそうすね」
 ハリーの言葉に、イズナの手が止まる。
「操作系統も複雑そうだし。ああ、でも重攻撃型ならユリア姐さんが好きそう。でも、この機体のパイロット、やっぱり壊したみたいっすね、新品なのに勿体ねぇー」
 顔を伏せ、歯をかみ締めるイズナ。
「勿体なくて悪かったわね」
 彼女はそう言ってビンセントの手を離す。
「私が壊したのよ。私がパイロット。でも、修理すれば良いんだから大丈夫よね、ねぇサブ?」
 びしりとキヲツケをするサブ。
「勿論ですとも!」
 サムアップと輝く歯。完全に、尻に敷かれている。そんなサブを尻目に、イズナは去り際に言う。
「左手、冷やしておいた方がいいわよ」
 イズナはそう言って、格納庫の方へ去っていった。