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ACT18 Hunting High and Low

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 イズナは、ノーラを窘めながらも、優しく、『まかせろ』と言った。短い言葉だが、彼女が言うと重みが違う。そしてノーラは、イズナを信じ、イズナは期待通りの成果を上げている。
 刹那、イズナからの通信が管制室に入った。
「こちらXA00、機体反応速度は上々、安定性もなかなかってところかしら」
 ノーラは、光学観測モニターに映るXA00を見ながら、インカムに向かって答える。
「OK、イズナ。こちらでも見てるわ。それよりも、機体側ソフトの方は?」
「動的重心制御に若干の問題ありね。今は私の脳に繋いで同時処理しているけど、流石に超光速度シーケンスを同時処理しながらってのは堪えるわね」
 そう言いながら、XA00はサーキットを高速で滑走する。XA00はスラスターによる推進機動性能が非常に高い。だからこそ、高性能の動的重心制御が必要なのだが、イズナは機体を上手く操っている。
「そう、了解したわ。無理をしないで、イズナ」
「XA00了解。それよりもノーラ、こちらの試験データの収集は済んだ?」
「ええ、でも何故?」
 一瞬置いて、イズナは一言。
「ストリーク・アイアン」
 イズナの言葉にノーラの右眉が若干持ち上がった。
 旧世紀1975年、アメリカ空軍の実験機は、高度30000m上昇時間207.80秒を記録し、同じくアメリカ空軍の高高度偵察機は、高度25000mで時速3529.56Kmを記録した。
 速さを求める事は、いつになっても変わらず、第四次大戦後、HMAの地表滑走最速記録を打ち立てたのは、時速1020Kmのストリーク・アイアンだった。イズナは、その記録を破ってみたいと思っていたのだ。
 だが、ノーラは、当然許可出来なかった。
「ちょっとイズナ。ダメよ、危険過ぎるわ。データはとれたし、もう帰投して」
 だがイズナは食い下がる。
「XA00の高機動モード、試さなくても?」
「あれは……」
「やらせろ」
 突然、背後からグラムの声がして、ノーラは素早く振り向いた。
 グラムは、この機動試験を視察しに来ていたが、ノーラは気にする様子も無く、試験を進めていた。だが、ここにきて口を出すとなれば話は別だ。
「XA00は、まだ子供です。危険な目に遭わせる訳にはいかないんですよ、大佐殿」
 ノーラは、“大佐殿”という言葉にアクセントを付けて皮肉ったが、グラムは無視して、手元のXA00機体仕様書を見ながら言った。
「大出力可変スラスターユニット、これを見てみたい。それに、子供はいつか親離れするものだ」
「大佐、機動試験のデータはもう取れたんですよ? それに、高機動モードは副次的に発生した機能です。XA00は今現在でも従来機より高い機動性能を示していますし、それに……」「責任は私が取る。この機の、有人機としての実力を見てみたい」
 “実力を見たい”と言われ、ノーラは一瞬迷いを感じた。自分達の作ったものだ、力は見せたいし、開発途中、XA00の無人化案が有ったことも事実だ。だが――
「ノーラ、私の事なら心配するな」
 イズナからも、グラムを援護する言葉が飛び出した。こうなれば多勢に無勢、しかも直系の上官であるグラムの指示ともなればなおの事。
「危険と判断したら、こちらで止めるわよ。いい?」
 ノーラは厳しい口調で言ったが、イズナは。
「大丈夫だ、問題ない」
 軽い口調で言ってみせる。
 溜息をつくノーラ。一方、イズナの乗るXA00は、高機動モードへの変型シークエンスに入った。
 機動推進制御をバイパスへ迂回。スラスター燃焼制御系クラスタ、セーフティーリミッタをTMIOSへ。フレーム可動、推力軸制御を同時並列処理。推力解放。
 次の瞬間、肩部スラスターユニットを可動させ、その推力軸を背面に向け終えたXA00は、光学観測装置の追跡を一瞬振り切った。
 XA00の高機動モードとは、機体新型兵装ユニットである肩部スラスターユニットを大きく可動させて推進軸を下方から後方へと変更し、主推進機関を背面スラスター二基双発からプラス肩部スラスターユニットの四発にすることによって莫大な推進力を得るモードを指す。
 これは本来、大型推進機関である肩部スラスターの、機体格納時省スペース化が目的であった可動機能に目をつけた物で、設計段階で意図的に盛り込まれた物ではない。しかも、安全措置として、ユニット“収納時”には、スラスターのプラズマ燃焼室が稼動しないようにされている。設計としては当たり前で、つまり、高機動モードの使用には、イクサミコの、イズナの回路迂回操作が、現段階では必要になる。
「やはりすごいな、これは」
 イズナは少し興奮しながら、機体コンディションを確認する。
 ――機体温度上昇も想定内。シミュレーターでは何度か試したけど、やっぱり、生のデータは熱いわね。
 高揚を押さえ付け、操作に専念する。
 ストリーク・アイアンは、HMA、と言うのは名ばかりの、いわば推進器に手足が生えたような物で、装甲はおろか、塗装にフレームに至るまでが極限まで省略された機体だった。例えるなら“スプリンター”。
 一方こちらは、数十トン単位の爆弾薬と装甲を背負う戦闘兵器、例えるなら重装甲冑を着込んだ騎士だ。
 一見するならば、勝負は目に見えているように感じるが、イズナは違う。
 そうだ、騎士には馬がある。
 ――馬に乗った重装騎兵、止めるのはキツいわよ。
 イズナはスラスターの推力を更に解放。四基の大出力推進器は彼女の意志に応えて、蒼い、錐のような炎を吹く。
 現在、時速750km。陸戦機体の戦闘時実用最大速度。
 数秒で時速870kmを突破。亜音速。気流とも相俟って、機体制御の難易度が格段に跳ね上がり、空戦機体用の機動推進制御が必要になるレベル。だがイズナは、必要としない。
 時速950km、ここまで来ると、HMA外装表面や手足等の突起から衝撃波が生じ始める。
 時速1000km、遷音速。今、機体周りの気流速度は亜音速と超音速とが入り混じっている。空気が圧縮性を有する気体であることの性質が現れ始め、衝撃波の発生により機体の安定性や操縦性に様々な障害が現れる、設計者やパイロットにとって最も難しい速度領域の一つだ。
 ここに来て、機体の振動が激しくなってきた。
 ただでさえも前方投影面積の大きいHMAが、こんなスピードで滑走しているのだから当然だ。
「イズナ!」
 制止するノーラの声。
「あと20!」
 しかしイズナは更にスラスターにエネルギーをぶち込む。
 だが機体の速度は上がらない。
 ――駄目、衝撃波同士のぶつかり合いで……
 一瞬、イズナの脳裏にエレナの言葉が浮かぶ。

『貴女は死に場所を探しているだけ』

 瞬間、イズナの機体操作に歪みが生じる。
 右脚部先端が路面に接触。機体バランスが崩れかける。
 緊急制動、リバーススラスト。
 主推力機関へのエネルギー供給を80%カット。フルバランスオートスラスト、作動。
 ドラグシュート放出、最減速。
 機体停止。
 システム、オールダウン。
 路面を滑り、火花を上げながら停止したXA00の中で、イズナはヘルメットを脱ぎ捨てて溜息をついた。
 機体を破損させ、記録の更新は失敗。