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ACT18 Hunting High and Low

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Chapter 2


 翌日、予定通りイズナの乗る機体が機動試験に出る。
 機体は、片膝をついた体勢でパレットに乗せられたまま、格納庫からスポッティングドリーに牽引されて外に出ると、センサーアイを上下左右に動かして周囲を安全確認。メインシステムが起動されると、背面にある巨大なスラスターユニットが可動して肩部に固定され、機体が立ち上がる。
 この機体、HMA-h2YF/XA00は、F型をベースにサンヘドリン高等技術開発部が設計した機体であり、その姿は、まるで見たことの無い形をしていた。
 大型の可動式スラスターユニットを有し、増加装甲ジャケットを装備していた。背面メインスラスターは、レザーウルフのそれと同系列の物を使用し、高い出力を持っている。
 イズナは、XA00のコックピットに着き、コンソールのチェック項目と、外部からの擬似信号、及びカメラ映像を目視しながら点検を進めていく。
 この機体にはまだ愛称が無い。機体肩部大型スラスターユニットには、白い文字でXA00とサンヘドリンマーク。その下には小さく識別用バーコードがマークされている。
 イズナは、推進系統の点検を終えると、スラスターのノズルを絞り、軽く燃焼させてやる。背面のメインスラスター二基が青い炎を鋭く吐き、爆発的な大音量を周囲にぶちまける。
 一応の目視確認を終え、システムチェックの最終段階に入る。
 90%の項目をクリア。
 しかし、一つだけ警告の項目が消えない。
 zero latency dynamic center of mass position control.超高速動的重心制御の項目だ。
 超高速動的重心制御は、機体セントラルコンピューター側に組み込まれている推進機動制御システムだ。
 機体コンピューターには二系統あり、片方がダウンしても予備のシステムで機動出来るようになっていて、基本的にイクサミコ側に組み込まれるシステムではない。
 機体全身のアポジモーターとバーニアスラスターを制御するための超高速動的重心制御無しでは、不安定な人型兵器は、推進機動において一瞬たりとも安定を保てない。その点では全てのHMAに共通するが、イズナは試験機体用のイクサミコであるため、TMIOS側にも、重心制御システムが組み込まれている。
 イズナは、自らの重心制御システムを機体とリンクさせ、項目をクリア。
 アーミングはされていないので、マスターアームコントロールをシステムから切り離し。
 イズナは機体の操縦桿を握り、スラスターノズルと、各駆動部を動かして最終チェック。
 イクサミコなら本来、機体シンクロによって可能な動作だが、イズナは人間のパイロットと同じようにやる。今は、自分がパイロットだからだ。
 管制室から、発進の許可が出る。
 XA00は、エプロンからタキシーウェイ、そして滑走サーキットに向かう。まずは推力滑走試験だ。
「いい子ね。さあ、踊ってみせて」
 イズナはそう言うと、強大な推力を地面に叩き付け、機体を猛然とダッシュ。地表ギリギリを滑走させながら、サーキットの彼方へ消えていった。




***************



 サンヘドリン対ヴァリアンタス軍高等技術開発部所属のノーラ・ジャイブス大尉は、中央軍高等技術研究所――CDLでの研修から帰還してすぐ、自分達がCDLで開発を進めていた機体の本格的な試験を始めた。
 サンヘドリン対ヴァリアンタス軍高等技術開発部は、現在に至るまであらゆる対ヴァリアント戦闘用技術・戦術を研究・開発してきた。
 装甲、機体制御システム、兵装システム。
 ヴァリアントの装甲にはメタニウム弾で対抗し、攻撃にはメタニウム装甲で、機動力には大出力スラスターと重力制御で対抗した。
 超高速機体制御技術、電子兵装、ビーム兵器、大口径大口径長火砲。
 しかし、全ての技術はいずれ陳腐化し、いつかは無力化される。そうなる前に、新たな技術を、新たな戦術を、開発しなければならない。その技術と戦略が打破されるとは、兵の死を意味し、多くの兵の死とは、則ち敗北を意味する。
 技術者達のする戦いは、銃を持った肉の戦いではない。だが、戦線を支え、兵の命を護る為の、彼らの銃後の戦いは決して蔑ろには出来ないのだ。
 今、ノーラ・ジャイブス大尉は、その戦いの真っ只中にあった。
 CDLで、中央軍技術者と共同で開発した機体、HMA-h2YF/XA00は、今、彼女の目の前で機動試験を行っている。
 XA00は、当初、火力支援を主な任務とするように設計開発された、大型攻撃機体だった。しかし現在は、フレーム設計の見直しや新型プロセッサー、大出力スラスターを装備、装甲形状にも若干の変更がなされ、高い機動戦闘および格闘能力も与えられている。それらの設計や改良には、開発当時、同時に設計開発が行われていたh3型のノウハウも活かされている。
 そのように生み出された機体なのだから、ノーラはXA00に絶対の自身を持っていた。
 今回は機動試験。次の兵装試験と、模擬戦をパスすれば、HMA-h2YF/XA00は、晴れて“Y”ナンバーの取れた制式採用機体となる。
 その意味を噛み締めながら、ノーラは、管制室のモニターに映し出される、機動試験中のXA00を強く、鋭い眼差しで見た。




***************




 滑走サーキットの周囲に張り巡らされた情報収集機器から発信される観測データと、XA00から送信される機動データが、管制室のモニター群を埋める。
 サーキットの全長は一周50kmの楕円型。
 コースの途中には、様々な不整地を再現した障害物が設置されていて、XA00が実環境に近い機動を再現できるようになっている。
 サーキットを滑走するXA00。その様子を、ノーラは釘いるように見つめていた。
 サンヘドリン技術者、整備課整備士、中央軍技術者、数百の下請け業者が、心血を注いでXA00を作り上げた数ヶ月間は、あっと言う間だった。
 思い起こせば、たとえゼロからの開発ではないとしても、F型ベースの新型機を数ヶ月、最低でも一年以内で完了しろ、など、とてもではないが正気の沙汰ではなかった。ふと思えば、旧世紀の有る国では、旧大戦終戦間際にはコンバットプルーフのされていない兵器を急造して投入したりしていたらしいし――、まあ、戦争には付き物、伝統のようなものらしい。
 しかし、自分達が作っているのは、急造品のインスタント兵器などでは、決してないのだ。
 それにノーラは、ここ三日間ほど寝ていない。XA00のソフト面の調整が手間取ったのだ。
 XA00は、新型プロセッサーを機体側コンピューターに使用しているが、インストールされているOSは従来のまま、つまり、解りやすく言えば、豪華な皿に粗末なレトルト食品を乗せているようなモノで、とても見合うようなものではなかった。
 それを知っていながら今回の機動試験を押して行ったのは、それもやはり上層部からの指示で、彼女は猛反対したが、上層部は即座に却下した。このXA00が早急に必要なのは分かるが、技術者としては気に入らず、イラつき、開発スタッフに八つ当たりした。だが、それを止めたのは、イズナだった。