サイコシリアル[4]
「涙雫君!」
遠くから戯贈が叫んだ。死を意識しているからかは不明だが、夢の中にいるのに現実から声をかけられているような、そんな感じ。
というか、戯贈には情けない姿しか見せられなかったな。戯贈は、僕のことを好きと言っていた。
だとしたら、僕はどうなんだろう。
決まってるか。
好きだから一緒にいるんだから。これ以上の理由なんてない。好きになるのに理由なんていらない、なんてよく聞くけど、理由がありすぎて見えていないってことなんだろう。
アニメやドラマだったら、ここで『死んでる場合じゃねー!』なんて言って奮闘する場面なんだろうけど、そんなの無理に等しい無茶だ。もう残された術も体力もない。
まず第一に、先程とは比べ物にならないくらいの時間軸の狂いがそれを物語っている。
死を意識した世界、死にゆく世界。
永遠という比喩を使うならば、この世界を言うんじゃないだろうか。
自分の死に様を看とることが出来る世界。
儚いという比喩を使うならば、この世界を言うんじゃないだろうか。
九紫戌亥が、ナイフの切っ先を突き付けていたのを、刃を押し当て横向きにした。
突くではなく、裂くことを選択したようだ。
その流れるような一連の動作もコマ送りのようで。
わざとゆっくり動かしているんじゃないのかと、勘違いさせるようで。
僕の視界の端では、戯贈が泣き叫んでいて。いや、叫んで、というのはあくまで予想であって。
それ程までに、脳の使用量は全て思考回路へと回されているのだろう。
戯贈の表情は、見たこともない表情で。
目を真っ赤に充血させ、涙を流していて、何かを喋ろうとしていて。
瞬間的な行動が出来ないのに、僕の方に駆け出そうとしていて。すぐに倒れ込むのが分かる。
作品名:サイコシリアル[4] 作家名:たし